めありずむ

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日本の不妊治療の経済支援はあまりにも遅れている(いのちのコスト第3回)

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当シリーズでは、不妊治療の保険適用の実現に向けてその必要性と対応策について記事を書いています。第1回では不妊治療をなぜ保険適用にすべきかとその医療費を、第2回ではその医療費をどう捻出するのか?について検討しました。

3回目となる今回は、海外の不妊治療における保険適用の状況と比較し、日本での実現性について考えたいと思います。

諸外国の不妊治療における保険適用状況

まず、各国の不妊治療に対する保険適用状況をまとめてみました。特に欧米諸国を中心に保険適用をしている国の多くは不妊症を明確に疾病と位置付けており、それが保険適用の実現に大きく影響していると考えられます。

  支援額 対象回数 対象年齢 出生率('15) 備考
フランス  100% 4回 42歳以下 2.01 *男女同時受診が必須
ベルギー 100% 6回 42歳以下 1.74  
スウェーデン 100%* 3回 40歳以下 1.88 *年間12000円以上は無料
イギリス 100% 3回 42歳以下 1.8 *公立病院のみ
スペイン 100% - 39歳以下 1.32 *公立病院のみ
オランダ ~90% 3回 43歳以下 1.71 *保険料によって異なる
デンマーク - 3回 40歳以下 1.69 *公共病院のみ
オーストラリア 85% -

 -

1.83 *ガイドライン遵守等が条件
ドイツ  50% 3回 40歳以下 1.5  
アメリカ 州によるが民間保険のほとんどが不妊治療をカバー 1.84  

 *実施方式が社会保険か税制度か、実施主体が保険者か基金か等は国家により異なるため割愛

*各国確認できたわけではないが、対象回数は主に「採卵」の回数のよう

*オランダは自己負担額を自分で決め、それに応じた保険料を支払う仕組みだが、実質100%に近い金額がカバーされる

 

*出典:「厚生労働省- 資料7諸外国における体外受精に対する経済的支援の状況」

 出典:「International Federation of Fertility Societies -  IFFS Surveillance 2007: A Worldwide Compendium of National Rules and Regulations for ART

(上記資料およびそれを基に筆者が調べた結果のため現時点の施策と異なる可能性がございます、もし間違いがあればぜひ教えてください。)

不妊治療を保険適用にしていない先進国の方が珍しい 

婚姻率(同棲婚などの事実婚を含む)が各国にさほど差がないことを考慮すると、日本は明らかに出生率が低い国なのです。日本の出生率がこれほどまでに低いのは、社会保障における「子育て」や「若年層」への支援があまりに薄いことも当然ありますが、不妊治療への経済支援のあり方が関係している可能性が十分にあると思います。というのも、表の中で出生率が芳しくないのはスペインとドイツ。スペインの場合、公立病院でしか保険適用されないという条件があるためキャパの問題で実質は民間保険のみで賄う必要があること、ドイツの場合は負担額が50%と経済的な支援としてはそこまで大きくないこと、どちらも万全の支援体制ではないということですよね。

WHOでも、International Federation of Fertility Societiesでも、アメリカ不妊学会でも、その他各国でも「不妊症は疾病である」というのが常識かつ当然の前提として議論されています。日本は、G7の先進国として世界に認められながらも、これらに関して国際的に圧倒的な遅れをとっているのです。言葉を選ばずに言えば、これは恥ずべき事態です。不妊症への対応があまりに後進国であることを自覚し、早急に改善するべきと考えます。 

民間医療保険でカバーするという考え方

また、国際比較をする際に重要になるのが、民間医療保険の存在です。上記のほとんどの国は、仮に公的保険でのカバーが低い場合でも、民間医療保険において不妊治療費を保険請求ができる場合が非常に多いです。保険料が高ければカバーされる範囲が広いというのが一般的な仕組みなので、相当額がカバーされるケースも少なくありません。というか、保険ってそういう仕組みのために考案されたものですしね。

アメリカなどは未だ民間の医療保険が主体ですし、他国でも社会保険としての医療保険を受けられない外国人などは民間の医療保険から賄うことは多くありますが、不妊治療を支払いの対象とすることを義務付けていたり、推奨している州(国)が多いようです。これは日本との大きな違いです。

日本では不妊治療そのものが「疾病」と定義されておらず、入院も伴わないため、基本的に民間の医療保険ではカバーされません。「医療行為」であることには変わりないのに、なぜがんの先進治療は民間保険でカバーできて、一般化しつつある体外受精がカバーされないんだって単純に疑問に思いますが・・。数年前日本生命から「シュシュ」という不妊治療・出産が対象になるという保険が発売されましたが、正直メリットは感じません。設計した人、加入させる気あるの?という感想です。

日本生命:シュシュの概要(不妊治療部分抜粋)

  • 加入から2年以内の治療は適用されない
  • 保険料は月額1万円ほど
  • 給付は最大12回で、1~6回は5万円、7回~12回目は10万円

日本の場合、国民皆保険制度があるため、アメリカのように民間の医療保険の仕組みが発達していません。もちろん運用資金も少ないでしょう。そのため選択肢が非常に狭まってしまっていますが、これを変えるのは困難を極めます。皆保険制度は素晴らしい仕組みですが、そこに穴ができてしまっており、その穴を埋める手段がないまま放置されているというのが実態です。

保険適用による弊害はあるのか?

日本で民間医療保険の仕組みやカバレッジを変えていくというのは正直相当に無理のある話です。社会保障の前提が崩れます。それよりは、公的な保険適用の対象とする方が現実的ですし、出生率の改善に寄与できる可能性も出てくると思います。

そこで課題になり得るのが、保険適用することによる弊害はないのか?という点です。欧米諸国がこれだけ保険適用にしているということは、デメリットよりもメリットが多いと判断されている結果であることは自明ですが、一応逆の立場からも検証したいと思います。

1. 治療の経済負担が減少することにより出産年齢が上昇するリスク

以下がアメリカでは州によって保険適用の範囲等が異なることから、不妊治療が保険適用にされることにより「出産年齢は高齢化するか?」と「受胎率に変動影響を与えるか?」という2点について州ごとの差を統計的に分析評価した論文です。

結論として、出産年齢は多少高齢化し得る(特に初産年齢)が、最終的な一人あたりの受胎率には影響しないという結果でした。この点は保険適用の年齢制限と併せて制度化することで解消できる問題ではないかと思います。

link.springer.com

2. 本来は必要がない人にまで高額な治療が施されてしまうリスク

これについては、治療ガイドラインの遵守と、保険適用可能回数を制限することにより避けられる課題と考えています。いきなり体外受精を行うのではなく、その手前で妊娠できないのかを確認する必要はありますし、人工授精でも胚移植でも「6回」を過ぎると成功率が著しく減少するというエビデンスがありますので、明確な原因がある場合(卵管閉塞など)を除いて各治療法の最低実施回数等を定めることは可能だと思います。

このあたりは次回、具体的な保険適用の要件としてもう少し詳しく検討したいと思います。

不妊治療の先の選択肢

さらに、各国と比較する時には、精子提供、卵子提供、養子縁組などに対する受容度についても触れる必要があります。単一民族国家であること、血縁へのこだわりが強い人が多いことが理由のひとつだと思いますが、日本はこれらに関して異常なほどに閉鎖的です。

不妊治療は必ずしも結果が出るとは限りません。その時、子どもを持つことに関して第2、第3の選択肢が普通に選べる社会である必要性があります。例えば、不妊治療で成果が出ない場合、その後は養子縁組をするというのはアメリカ等では本当に一般的な話です。

私の友人夫婦(女性が38歳)も昨年、2年間治療し授からなかったため養子を迎えました。その報告を聞いた時、一通り祝福したあと「これってすごい決断だったんじゃない?」と質問してみたのですが、「どうして?別に特別なことじゃないわよー、愛するわが子には変わりないし。」という反応でした。正直、さすがアメリカだわ…とその許容度の広さに感服しました。

また、最初の一覧には出しておりませんが、掲載されているほとんどの国では卵子提供・精子提供について法整備されており、体外受精で成果が出ないと卵子提供・精子提供等を医師から提案されるそうです。

血縁だけが家族ではないし、家族の形は多様であっていい。子だくさんでもいいし、遺伝子が異なっていても、産みの親が違っていてもいいし、DINKSでもいいし、同姓婚だっていい。この点についても、日本は他の先進国に比べると圧倒的に議論がされておらず、遅れていると言わざるを得ません。

どれも簡単な話ではありませんし、民間だけで成立する話でもありません。例外なく法整備が必要ですし、また多様な価値観を受け入れる教育も必要です。正直、国会ではこういったことを一刻も早く議論すべきだと考えていますので、ちょっと余談ですが、今の予算審議すらなされない状況には非常にイライラしています(笑)

4回目となる次回は、不妊治療の保険適用に際する具体的な要件や課題への対応策を考えていきたいと思いますので、よろしくお願い致します。

 

いのちのコストシリーズは以下のカテゴリでまとめてご覧いただけます。多くの方の理解と拡散が必要です。賛同していただけたら、ぜひ拡散や発信にご協力いただけますと幸いです!

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これまでの各回の要旨まとめ

第1回の主旨:

  1. 不妊症は「疾病」であって保険適用対象である
  2. 不妊治療にかかる医療費は多く見積もっても年間2兆円

第2回の主旨:

  1. 社会保険から年間2兆円は十分捻出できる
  2. そもそも高齢期の高額な終末期医療を是正するべき

第3回の主旨:

  1. 不妊治療が保険適用されていない先進国の方が珍しい
  2. 不妊治療の先の選択肢も併せて広げるべき