めありずむ

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不妊治療費の保険適用を実現する上での条件案(いのちのコスト第4回)

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当シリーズでは、不妊治療の保険適用の実現に向けてその必要性と対応策について記事を書いています。第1回では不妊治療をなぜ保険適用にすべきかとその医療費を、第2回ではその医療費をどう捻出するのかを、第3回では海外諸国の保険適用状況から日本が先進国として遅れている現状を考えました。

第4回目の今日は不妊治療を保険適用の条件面などを具体的に検討したいと思います。目的は2つ、具体論にすることで保険適用をリアルにイメージしてもらうことと、厚労省や政府の皆さんのお仕事をちょっとだけお手伝いすることです。

ちょーっと面白みがなくて申し訳ない!!全部にエビデンス付けようかと思ったけど論文みたいになるのでやめました!(笑)

不妊治療保険適用時の条件案

まず結論として「べき論」から導いた条件を書いてみます。

  1. 不妊治療費は検査から体外受精などの高度生殖医療までを保険適用対象(3割負担)とする
  2. 高額療養制度の対象とはしない
  3. 人工授精6回、体外受精6回(採卵回数)を保険適用の回数制限とする
  4. 保険適用の対象年齢は40歳までとする
  5. 高刺激を原則とするなどの治療ガイドラインに則り段階を踏んだ治療の規定を設ける(遵守しない場合には適用外とする)
  6. 培養士・専門医の育成システムを国家的に整備し、施設間の技術格差を是正する
  7. 着床前診断・精子提供・卵子提供の選択標準化を整備する

1. 高度生殖医療まで3割負担の保険診療

保険適用の範囲ですが、一般の不妊症検査から、血液検査・内診などはもちろん、人工授精、体外受精、顕微授精の採卵、TESE、培養、凍結、融解移植の技術料、薬剤費は保険適用の範囲にすべきです。

また、保険診療とは診療報酬を定め点数化することを指しますので、病院間の費用差はなくなります。そのため、従来より売上が減少する施設も出ると想定されますが、治療ニーズを考慮すれば保険適用後は相対的に患者数が増加すると思いますので、産婦人科学会の反発を抑える方法はあると考えています。むしろ、医師側を味方につける方が正攻法なので、年齢や回数等の制限によって費用対効果を高めることで、不妊治療に係る診療報酬を向上させるというストーリーの方が患者・医療提供側の双方にメリットがありそうですね。

対象としないもの(現時点では「先進医療」として適用外でも良いと考えるもの)

  • 代理母出産、子宮移植
  • 婚姻前の卵子凍結・精子凍結 

これらは現時点では二次的な選択肢なので、すぐに対象にする必要はないと思います。ただし、ガン保険のように先進医療を対象とした民間保険はできて然るべきだと思います。ここまで必要な方は限られるので、保険の仕組みとしても成立し得ると想定されます。

2. 高額療養制度の対象としない

こちらは平均的なスケジュールを考えるとどっちでも大差ない気がしますので、実際はどっちでも良い=対象としないとした方が関係ない人からの反発が少ないかも、という程度です。

高額療養制度が適用される場合、平均的な収入のケースで1ヶ月あたりの自己負担上限額は8万円程度と言われています。1ヶ月目に誘発+採卵で約30万円、2ヶ月目に培養・凍結・移植の支払いで20万円程度と考えると3割負担では9万円と6万円です。

このレセプト請求が1ヶ月のうちに発生した場合には15万円が8万円程度になるので恩恵を受けられることにはなりますが、不妊治療は「周期」というカウントなので、逆にタイミングによって自己負担額に差が出る方が不公平かな、と思いました。よって、対象にする必要はないという考え方です。

3. 保険適用回数の制限

人工授精6回、体外受精6回(採卵回数)を保険適用の回数とする。

言わずもがなですが、人工授精による妊娠の約90%は5回目までに達成され、6回目以降は累計妊娠率がほとんど上昇しないというエビデンスに由来します。

体外受精の採卵回数を6回とした理由は総合的な判断ですが、移植あたりの生産分娩率が23%(産婦人科学会発表資料、2013年7月)から想定するに、平均的には4~5回の移植で出産までこぎつけられる可能性が高いこと、一方で高刺激を実施しても胚盤胞数が1個に満たないケースがあること、イギリスの論文では移植6回までの累計妊娠率が65%というデータがあることなどと、年齢制限を厳しくする事とのトレードオフから出したものです。スペインの論文では累計生産率が頭打ちになるのは胚盤胞移植で10回というデータもあるようですが、この回数制限をどこまで緩和できるかは他の条件との併用による「費用対効果」に依存するところなので、現時点では6回程度が妥当と考えます。

同時に、「着床前診断(PGT-A)の利用を選択可とすることで、少ない移植回数で治療成果を上げる」取り組みとセットになるものと考えています。

4. 保険適用年齢の制限

年齢制限は40歳までを上限とすべきと考えます。上で書いた通り、体外受精の回数を多めにする事とのトレードオフで、年齢の方をキツめにしました。理由は40代に入ると急激に成功率が低下すること、治療の有効性が高い若年層の方が経済的な余力が少ないことが上げられます。日本の高度生殖医療の成功率が低いのは治療開始年齢の高齢化が一因と言われています。それを改善する策としてもある程度の線引きは有効かつ必要であると考えました。

ただし20代で凍結した卵子を用いる場合などは例外として41歳以降での受精卵の培養・移植についても保険適用として扱っても良いと考えています。

 

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*出典:日本産婦人科学会データブック2015年版

5. 治療ガイドラインの遵守を条件とする

不妊症検査結果と年齢枠によって治療ガイドラインを定め、遵守を必要とすることも条件だと思います。(34歳以下で全ての検査に問題がなければタイミング法から開始とか、人工授精6回で陰性の場合には体外受精へのステップアップ可能とするとか、高刺激での採卵を基本とするとか)

ガイドラインを遵守しない場合には保険適用は受けられないこととします。この目的は主に2つ、本来高度医療が不要な方への治療を避けること、費用対効果を向上させることです。

6. 専門医・培養士の育成システムと施設間の技術格差の是正

実は保険診療とする場合に最も壁になるのはこの点だと思います。現在は極端な話、費用=技術力という図式も成り立ち、技術が優れている施設は他医院と差別化し利益を上げることも可能です。しかし、保険診療で点数制になれば報酬は一定化されますので、「技術が優れているから高額にする」ということはできなくなります。(良心的な価格で取り組まれている施設もありますので一概には言えませんが、ここでは技術力と費用は相関するという前提で話を進めたいと思います。)

つまり、技術力が高いことを差別化因子として高額な料金設定をすることでビジネスとして成功している施設が保険適用によって最もマイナス影響を受ける可能性があるわけです。そこから派生し得るリスクは以下のような課題です。

  • 高技術の施設は富裕層だけを相手にし、保険診療を行わない
  • 保険診療へのシフトにより利益が減少し高技術を支える人材育成にコストを割けなくなる
  • 保険診療を行わない施設や海外などへ人材が流出してしまう

どのパターンも残念ながらいい結果ではありません。よって、対策として必要になる点がいくつかあります。

  • 適切な診療報酬の設定(間違っても現状の安値を基準にしてはいけない)
  • 診療報酬のプラス改定(日本は相対的に技術力に対する医療費が安すぎる)
  • 培養技術や専門知識の全体的な高度化を実現するためのスキームの構築
  • 培養士など技術職の待遇向上、技術知識レベルに応じた評価制度の導入促進

 

7. 着床前診断・精子提供・卵子提供の選択標準化

精子提供・卵子提供はあくまで二次的なオプションとして現時点では保険適用外で良いと考えますが、選択肢としては標準化されるべきものであると思います。

第3回で調査した欧米諸国のほとんどでは、すでにこれらは一般的な治療の選択肢になっています。(むしろ選択できない国の方がめずらしい)

ただし、特に卵子提供等については法整備が必要ですし、その意味でこれらの議論を待っていては保険適用は何十年も先の話になってしまうでしょうから、消極的理由で現時点ではオプションという扱いでよいとは思います。

今この議論を始めなければ、日本が本当の意味で「多様な生き方」「多様な家族形態」を受け入れる成熟した社会にはなれないのではないか、という危惧がありますので、条件の一つに加えました。

若年層をさらに優遇する施策

そのほかのやり方として、なるべく卵子が若いうちに治療を開始することに対するインセンティブを設けるというやり方があると思います。例えば20代は2割負担、35歳までは2.5割負担、40歳までは3割負担といったような形です。

今日本の平均初婚年齢は男性31.1歳、女性29.4歳(2016年人口動態統計」)です。この年齢であれば不妊症の治療も十分に成功する可能性があります。当然ですが、何歳で結婚するかも、何歳で子どもを持つかも個人の自由です。しかし、出産できる年齢に限りがあることを今よりもしっかり周知し、将来的に「産みたい」と考えるのであればそのための準備をしっかりやっておく、そのための教育と社会制度は絶対に必要ですよね。少子化が少子化がと問題視するわりには、結局すべて個人任せの今の状況では国の存続は厳しくならざるを得ないと感じます。

選択するのは個人の自由ですが、より効果的に治療の結果を出すために、効率の良い年代で治療に取り組む人にインセンティブを与えるというのはアリなんじゃないかなと思います。

費用対効果を勘案した方策の必要性

私個人としては、もちろんできるだけ多くの人が納得できる治療を受けられるまで経済支援されることが理想だと思ってはいます。(私だって本当は、費用を気にせずベストな治療を受けたいです!)しかし、このシリーズ記事を書いている目的は「実現させること」であって、言いたいことを言うだけでは意味がありません。

今ヘルスケア業界では「医療経済性評価(HTA)」や「医療経済アウトカムリサーチ(HEOR)」といった医療の経済性、費用対効果を評価する動きが活発化しています。何もかもすべてを叶えることは難しい中で限りある資源を最大限に活用すべき時代、経済合理性を追求した施策案でなければわがまま放題の戯言になってしまい兼ねない。断腸の思いで、まず私達が「最低限手に入れるべき権利」を優先し、わりとバッサリいってますが、ご理解いただけるとありがたいです。

 

とにかく、不妊治療費は保険適用になるべき!!その財源は、日本中に蔓延する「いのちを繋がない医療費」です。具体的な適用条件や想定される課題もある程度見えています。なぜ、こんな明確な課題に政府は取り組まないのですか?

 

という事で、今回は淡々とした話題が続いたので、最終回は心のある文章で締めくくりたいと思います!

 

いのちのコストシリーズは以下のカテゴリでまとめてご覧いただけます。多くの方の理解と拡散が必要です。賛同していただけたら、ぜひ拡散や発信にご協力いただけますと幸いです!

 

これまでの各回の要旨まとめ

第1回の主旨:

  1. 不妊症は「疾病」であって保険適用対象である
  2. 不妊治療にかかる医療費は多く見積もっても年間2兆円

第2回の主旨:

  1. 社会保険から年間2兆円は十分捻出できる
  2. そもそも高齢期の高額な終末期医療を是正するべき

第3回の主旨:

  1. 不妊治療が保険適用されていない先進国の方が珍しい
  2. 不妊治療の先の選択肢も併せて広げるべき

第4回の主旨:

  1. 費用対効果と経済合理性から妥当なラインで保険適用の条件と制限を設けるべき
  2. 妊娠・出産率の高い若年層がより積極的に治療に取り組みやすい制度にすべき

 

また、不妊症一般についてご理解いただくため、「日本生殖医学会」の冊子がまとめられていますのでこちらもシェアさせていただきます。

http://www.jsrm.or.jp/document/funinshou_qa.pdf