今日はちょっとブログっぽく直近に不妊界隈で話題になった1テーマを扱ってみたいと思います。4/17(火)に放送された「アイ・アム・スタディ」という日テレのゴールデン番組で「日本の少子化がヤバい」というテーマを扱っていましたね。
どんな内容だったのか?
番組の1コーナーとして、少子化がどういうことなのかを説明し対策を考えるというような主旨で構成されていました。こちらの記事で概要がまとめられていましたのでお借りします。
このしらべーさんの記事中にもアンケートがあるように日本はそもそも「子どもを持ちたい」と考える人の割合がとても低いんですよね。
事情はそれぞれにあると思いますが、「子どもを育てるのにお金がかかりすぎる」というのは事実だと思います。
子どもを持つ人だけが苦労する状況で少子化が加速するのは、国家としては望ましくないですし、その対策として橋本氏が紹介したフランスの税制度「N分N乗方式」(=子どもを産めば産むほど税金が免除される)は有効な可能性が高いと重います。
国家として子どもを育てていこうね、というのは至極妥当な考え方であり、子どもがいない家庭でも次世代を育てるために税金を払ってその手助けをするというのは国としてはあるべき形のように思います。
なぜ不妊界隈がザワついたのか?
ではなぜ不妊界隈はこの番組に怒りを覚えたのでしょうか?ポイントは2つあると思います。
- 「セックスさえたくさんすれば子どもはできる」という発想をマスメディアが平気で垂れ流したこと。
- 子どもが欲しい人への不妊治療の経済負担軽減を同時施策として一切触れていないこと。
不妊はセックスが少ないからじゃない
番組中、少子化対策には「セックスを1日何回するか義務化すればいい」とか「1人産むには150回のセックスが必要」いうなんとも言い難い議論がなされていたことについては、そもそもこんな乱暴な議論はすべきじゃないと思います。(しかも家族で観るゴールデンタイムに)
しかし、それよりも違和感があったのは「セックスさえたくさんすれば子どもはできる」という発想をマスメディアが平気で垂れ流したことです。
実際に橋本氏がそういう発言をしたわけではなく、ゲストのタレントさん達が言っていたことではありますが、これではまるで「子どもがいないのはセックスが足りないからだ」という勘違いを助長することになるのでは、と危機感を覚えました。
もちろん一部では正しい面もあって、そもそもセックスレスそのものが課題という夫婦も多くいることは事実です。
しかし、私が知る限り「子どもを持ちたい」と考える夫婦がそれに該当するとは思えません。子どもが欲しいと思えば、何をしなきゃいけないかくらいみんな十分すぎるほど分かっていますし、そう簡単に妊娠できないことも痛いほどよくわかっています。
不妊治療している人たちはみな、通院なんてしたくないし、お金もかけたくないし、注射も打ちたくない、セックスで授かれるのならいくらでも頑張れる!のが本音です。
そもそも、現代人のセックスレスが増えているのは「子どもは別にいらない」という考え方や、「子育てするほど生活に余力がない」「それよりもやりたいことがある」と言った理由があって、そもそも子どもが欲しいと思っていないからというのがあるでしょう(夫婦どちらかがそうである場合も含めて)。正直、子どもを持ちたくなる社会かどうかという、セックス以前の問題じゃないでしょうか。
「セックスをたくさんすれば子どもが産まれる」というのはあまりにも雑です。不妊ってそういう問題じゃないんですよ。
いくらセックスをしても自然妊娠が難しい人がいるという事実は、その数からいってももはや特殊事情や他人事ではありません。
このような短絡的な内容を放送してしまったことは日テレさんにお詫びと訂正をしてほしいと感じるほどでした。
ではどんな政策が必要なのか?
N分N乗方式をやるなら不妊治療の保険適用も同時にすべき
2点目の税制についてですが、個人的には冒頭でも書いたようにその政策自体は否定するものではないと考えています。
今不妊症で悩んでいる人たちもいつかは子育てをするために治療しているのであって、自分たちも子育てをする前提で捉えていますし、「子育て優遇」には全く反対する気はありません。
ただ「産めば産むほど税金を安くする」のであれば「産むための経済負担も併せて補填する」という仕組みが同時に行われる必要があります。理由は単純です。
- 不妊治療で経済負担が大きいうえに高い税金も求められるようでは、子どもが欲しくてもチャレンジできる人が減ってしまう
- 産む気がない人を説得するより産みたい人をサポートする方が早い
そもそも結婚しようとする人、子どもが欲しいと考えるてもらうことが大変な時代に、あとは「産んで育てるだけ」の段階にいる人たちを助ける方が手っ取り早いですよね?
不妊治療の成功率が低いなんて声が出たりしますが、多くは治療開始年齢が高くなってしまうことが原因です。そもそも何百万円もかかる治療に成功率が高い20代や30歳前後のうちに取り組むなんて経済的にも難しい場合が多いです。
他にも、PGT-A(着床前診断)のように体外受精の成功率を上げることができるにも関わらず国や医師会が認可をしない技術もあります。
本気で取り組むならまだまだできることがあります。妥当なラインで保険適用の年齢制限を設ければ 、それまでになんとかしようという人も増えるでしょう。
また、このN分N乗方式を実施しているフランスでは不妊治療は保険適用の対象です。出生率2.0は、この両方をもって実現されているものだということを忘れてはいけません。
もし、N分N乗方式を議論するのであれば、必ず同時に不妊治療の保険適用もしくは治療費の7割以上を負担する助成金制度を議論すべきです。さらに、税金の控除対象として、医療費控除だけでなく不妊治療費控除のようなものを設け、ダブルで控除対象とすべきだと思います。
私達不妊治療をしている者は、今お子さんがいる人たちと同等かそれ以上に「子どもを産みたい、育てたい」と考えている人たちです。自然には妊娠できない何らかの原因を抱えており、高額な治療をするしかないのです。
他の病気と同じように国民皆保険でサポートされて、納得する治療が受けられて、それでも産めなかった時にはN分N乗方式の税制の下で税金を払ってもいいと思います。対象者は無視できるレベルの少なさではありません。そのことを肝に銘じて政策論争をしていただきたいと思います。
出生率が低い問題の本質は、若い世代が結婚したい、子どもを産みたいと思える社会じゃないことです。子どもが欲しいと思えれば、できるように妊活するでしょう。セックスが少ないから子どもが生まれないなどと短絡的な事、影響力のあるメディアを通じて軽々しく放送しないでください。
不妊治療の保険適用については当ブログで「いのちのコスト」というシリーズ記事を書いていますので、併せてご覧いただけますと幸いです。