めありずむ

不妊治療・育児・Mr.Children・手帳・雑記ブログ

COVID-19をめぐる不妊治療の各所対応に思う

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いろいろ言いたいことがあった本件、個人的には生殖医学会の「不妊治療の延期推奨」も「助成金の年齢制限1年延長」も仕事サボりすぎにしか見えなくて、批判だけだとイマイチなのでこれが良かったと思うという案も一応書きました。

日本生殖医学会の声明

各国に遅れること2週間、4月1日に日本生殖医学会からCOVID-19に対する声明が出されました。

  • 不妊治療の延期を推奨する
  • 既に卵巣刺激による採卵周期を開始している場合は治療を継続し胚凍結を検討
  • 人工授精や胚移植、生殖外科手術など可能なものは延期を考慮

というのが要点でした。私が最も唖然としたのは、以下の文です。

国内での COVID-19 感染の急速な拡大の危険性がなくなるまで、あるいは妊娠時に使用できる COVID-19 予防薬や治療薬が開発されるまでを目安として、不妊治療の延期を選択肢として患者さんに提示していただくよう推奨いたします。

この声明が出された時点では、北海道以外で緊急事態宣言も出されておらず、感染拡大の危険性は完全に未知数でした。

さらに予防薬(ワクチン)や治療薬の開発の目処などと言われたら1年も2年も先になる可能性があります。その期間不妊治療の延期を提示、というのは、正直かなり乱暴な印象を受けました。

特に問題だったのと思うのは5点です。

  1. 「不妊治療の延期を推奨」というひとくくりの表現をしたこと(具体的には声明の中でも後述してますが、人はここを切り取ります)
  2. 延期要請が妊娠を避けることを目的としたものか、院内における感染リスク防止の目的かが不明瞭であったこと(文章としては前者のように読み取れる)
  3. 上記2が前者だとした場合、妊娠中の重症化リスクは明らかではないとし、妊婦健診等も通常通り行うように指示した産婦人科感染症学会の声明と、妊娠に対するリスクの整合性が取れていないこと(もしあえて妊娠を避けるべきとするならば、自然妊娠についても注意喚起がなされるべきではなかったか?)
  4. 上記2が後者だとした場合、クリニックの感染防止策への言及がないこと
  5. 治療を行っている患者への延期期間の目安や個別に治療を進めるべき対象となる方に関する具体的な提示がなかったこと

例えば日本口腔外科学会 では院内感染を防ぐためという目的を明確化し、「緊急を要しない治療は延期を検討」「エアロゾル被爆の少ない治療法への変更の検討」「手術を受ける患者への外出自粛、イベント不参加等の要請」といった内容の声明が出ています。

日本眼科医会では眼科手術のうち感染リスクの高いものと低いものの線引をし、ハイリスクの手術に関しては悪性を除き延期を推奨、術前後の体調確認や付き添いの最低限化など通院における感染対策を要請しています。

どちらも感染者を増やさず必要な治療は行うという姿勢であることが理解できます。

反対に皮膚科学会や泌尿器科学会などは、各クリニックに判断を委ねたのか、特にこの類の声明は出していません。 

各クリニックの対応

実際、学会の声明を受けてのクリニックの対応はマチマチでした。

全面休診や治療の一律中断、初診受付を停止するところもあれば、あくまで個別に患者さん判断を委ねるクリニックも多くありました。

「延期要請はあくまで要請であって、強制ではない」という意見もありましたが、クリニックの判断によって全面中断されたり、転院という選択肢もなく遠方通院などで身動きが取れなくなってしまっている患者も存在しているのが実態です。

中には、数ヶ月の猶予もない、という方もいます。仕方ないよね、と思えるのはきっと猶予があると感じていらっしゃる方でしょう。

学会の声明前に実施された下記のアンケートではほとんどの方は通院スタイルを変えないと回答されていました。感染リスクがある事は承知の上だと思います。

実際声明によってどの程度変化があったかは分かりませんが(今更だけどアンケート取ればよかった!) 治療継続を考えていた多くの人たちの中で、あの声明に納得感を持っている反応は少なかったように思います。

整理すると、個人的に学会の声明およびそれを受けたクリニック運営はこうすべきだったのではと思う考えも書いてみます。

  • 不妊治療は不要不急ではない医療行為のため、患者の年齢や持病等の状況に応じて延期等を検討
  • 休診を推奨するものではない(もし休診を行う場合は、5月6日までや緊急事態宣言が解除されるまでなどその時点で考えうる期間を設定し目安を提示)
  • 感染リスクを抑えるための対策を行い、それに伴う通院患者数の調整を行うこと
  • 人工授精・移植周期 ⇛ 延期は患者の判断に委ねる(自然妊娠と同様の扱い)
  • 採卵周期 ⇛ 実年齢・卵巣年齢に応じて、例えば42歳以上の方は1ヶ月、40歳以上の方は2ヶ月、36歳以上の方は3ヶ月といった延期期間の目安を提示する他、延期すべきでない方(例えば医療的妊孕性温存を目的とした採卵や、卵巣刺激に関する特殊な治療を行っている場合の採卵等)を具体的に提示
  • すでに開始している周期 ⇛ 延期は採卵・移植共に中止した場合のロスを考慮した個別判断(ただし、新鮮胚移植をせずに胚凍結を推奨すること)

つまり、感染リスクを低減させる措置であれば、他の診療科クリニックが実施している対策で良かったのではないかと。もちろんクリニックの規模などによって休診リスクが異なるのでそれは他の診療科と同様にクリニック自体が地域性等も考慮して決める必要がありますが。

  • 付き添いの禁止や来院者へのマスク着用の義務化
  • 発熱や呼吸器等の症状がある方は治療・来院を中止すること
  • 来院者へのアルコール消毒の実施
  • 診療時間の短縮および1日の来院者数を減らす措置(例えば連続した採卵周期は行わないとか、排卵抑制にアンタゴニスト法を推奨するとか、可能な検査はまとめて実施するとか、手技や内診を伴わない診療の電話やオンラインでの実施、薬剤の配送もしくは受付等での受け渡し対応等々、いろいろやりようがあるじゃないですか)
  • 医療者と患者の接触を極力避ける物理的距離・飛沫シールドの設置
  • 待合スペース(席)の間引きや換気
  • 雑誌やボールペンなど共有物の利用停止

私の知る限り他診療科は治療の必要性等を考慮して診療を継続しているところが多く(中には全面休診もありますが)、仮に休診にしても5月6日まで等飲食店や美容室等と同等の対応を最初から明言しているところが多かったような印象です(これは地域差があるかもしれませんが)。

政策面(助成事業について)

とはいえ、今回の件で言えば、政策面が一番違和感を持ったところです。

要は、新型コロナウイルス感染防止の観点から一定期間治療を延期した場合、時限的に年齢要件を緩和し、従来の対象年齢43歳までを44歳までに、通算助成回数の基準年齢も1年引き上げるというものです。

え、これがベストかつ十分な対応だと思ったの?誰がそんなこと考えたの?というのが私の正直な感想でした。それで「コロナ対策した」なんて言われたらたまったもんじゃない、と思いました。

あでも、スピード感は素晴らしかったと思いますけど。

理由は主に2つです。

  • 治療を受けている90%近く(実際は90%以上だと思います)の患者は年齢的に関係がないと思われること*1
  • むしろ患者においても経済的な困窮の方が懸念されるため、助成要件の前年所得という定義の見直し(制限の撤廃を含む)や助成額・回数制限の緩和の方が重要であること*2

一部のご尽力くださった政治家の方には申し訳ないけど、何をこれで厚労省を動かした、みたいなこと言ってんだと思いましたし、厚労省ももっと問題の本質や効果範囲を検証できないのか?という疑念を持ちました。

しかもあれだけ年齢が年齢がと言われているのに助成期間が伸びたって治療成績を1年分保留にできるわけじゃないんですよ。本当にそれが国として真っ先にやるべき事だったの?

相変わらず「やった感」だけで仕事をしているようにしか見えません。どうせあれでしょ、コロナ対応もすぐに実施ました!って答弁に使いたいんでしょ。

患者当事者置いてけぼりですよ。

結局何が問題だったのか?

めっちゃ批判的でごめんなさいね。あくまで個人の意見なので、賛否は多々あるかと思いますが。

でも、私今回の不妊治療を巡る対応はやっぱり不十分だと思う。不妊治療だって他の疾病と同じで、治療待ったなしの人と数ヶ月待てる人がいる。そういう事実をそもそも生殖医学会がどう捉えているのか、という点はやはり引っかかった。まるで学会が不妊治療は不要不急ですって世間に宣伝したようなものだ。勘弁して欲しい。

それに輪をかけた政治・厚労省の対応。

ホント失礼承知ですけど、学会も厚労省も「何もしないよりマシ」なレベルだと思ってる。

私が上記で書いたどの組織にいたとしても、もし担当者だったら違う方向に持っていったと思ってしまうんですよ。

  • 産科婦人科学会・生殖医療学会・産婦人科感染症学会の統率取れてなさすぎ
  • コロナ対応に託けて何でもいいから成果をあげたかった政治家私欲出しすぎ
  • この2つを鵜呑みにしただけの厚労省の仕事サボりすぎ

なぜこれをわざわざ言うかというと、確実に感染の第2波、第3波は来るものと想定すべきだと思うからです。5月で終わりではないでしょう。6月なったら世の中が元通りになるわけじゃない。その時、今のままの対応でいいとは到底思えません。これは政府の対策がそもそも中途半端ってのはあるけどね。

本当は良好な協力関係を築きたい学会や政治家や厚労省がこのような感じなので、当事者のことを真剣に考えた生殖医療の未来を構築していくというのが、いかにハードルのあることなのかを思い知らされた出来事でもありました。

でも大事なのはこれからなので、関係各所の改善を含む対応アップデートに期待しています。当事者を置き去りにしないでほしい、患者ファーストであってほしいと心から願っています。