ちょっと前のことになりますが、AI=人工知能によるアプローチで胚の評価を最適化できるというニュースが出ていましたよね。
画像診断はAIの超得意分野
ひとまとめにAIと言ってもそのレベルは様々ではありますが、今のところAIが最も強い領域のひとつが「画像診断」と言われています。
実際に医療現場でもその活用はかなり進んできており、特にCTやMRIを筆頭に画像から異常を見つけ出すという能力においては「答え合わせ」を可能にする情報がかなり蓄積されているため、すでに人間を越えているとも。
現在日本ではその多くが人の目によって実施されている「胚の評価」もまさにその領域。
体外受精・顕微授精の領域も劇的に変化しえる可能性を持っているわけです。
AIのアプローチに関する論文の要約
ということで、今回注目した論文はこちらです。
- 2019年4月4日にNPJ Digital Medicine誌に発表された論文
- Weill Cornell Medicineの研究者による胚の評価に関する新しい人工知能アプローチ
- STORK という名前がついている
- 胚の成長段階のコマ撮り画像を分析することで、胚盤胞が妊娠する可能性が高いかどうかを非常に正確に識別することができる
- 今回は約50,000枚のタイムラプス画像を使用し、胚の評価のアルゴリズムを構築した
- タイムラプス画像による判断のメリットは安定したインキュベーター条件から胚を取り出さず、胚の細胞にも影響を与えずに評価できる点である
- 実臨床での活用に向けて、アルゴリズムを改善するために追加のパラメータを組み込むことを予定している
- 結果として、97パーセントの精度で新しい胚画像のグレードを分類することができた
- ただし実際に妊娠する胚だけを選び出すことには成功しなかった
- 下の図は培養士による胚の評価のブレをSTORKが多数決的な評価として吸収できることを示している(=同一基準で安定した評価が可能)
染色体が正常な胚なのかはわからない
現時点のAIを用いたSTORKのアルゴリズムは、「人が判断するよりはよほど高精度にグレードの評価をつけることができるが、最重要である染色体が正常かどうかの判断はできない」ということになるようです。
これがPGT-Aより優れている点は、
- 導入コストや量的な制限がほとんどないこと
- タイムラプスとの併用により胚へのダメージを最小限にできること
ということなので、胚培養士の業務をカバーするという点では活用が広がる可能性は極めて高いのかなと思っています。
特に胚培養士個人による判断のブレをなくすことは、施設内はもとより施設による胚の評価の差を均一化できるというところに非常に価値があります。
実際、すべての人にPGT-Aが必要かというとそういうわけではないですし、コスト的にもすべての患者が最初からPGT-Aを選択するという可能性はほとんどないので、PGT-Aの活用が促進されていく場合でも、まずは従来の胚の評価方法の一部にAIが入ってくるのだろうなぁと。
それからPGT-Aによる胚へのダメージの影響が大きく、正常胚でも妊娠しないというケースには有効になる可能性も十分考えられるのかなと思います。
AI技術がPGT-Aを越える日は来るか?
私の個人的な答えは、診断に用いる材料が変わればYESだと思っています。
というのも、胚盤胞を用いたPGT-Aは特に「体外受精の妊娠率を向上させる」という点でまだ課題を残していることは事実であり、それを越えられる可能性は十分にあると考えています。
- 診断に使われる画像がより高精細になり得ること
- 断片的な画像ではなく一連の動画として胚の成長を捉えることによる評価の可能性があり得ること
- (画像診断ではないが)個人の持つ遺伝子によって精子や卵子が正常でも不妊になり得る、そのゲノム解析が進む可能性があること
その一方で、今のPGT-Aに関しても、現在主流であるNGSという方法を越える方法論が登場する可能性は当然期待できますので、どっちがどっちかは何とも言えませんが・・。
まぁ、リアルなのはPGT-Aも含めて生殖に関する遺伝子解析がAI活用によってより現実的になるというところかもしれませんね。
いずれにしても、このあたりの研究は日進月歩であり、他の医療技術の応用という可能性も考えられるのでまだまだ進化していくだろうと思います。