めありずむ

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不妊治療助成金は本当に十分な支援なのか?

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不妊治療の経済的な支援として、助成金という制度があり、活用されている方も大勢いらっしゃいます。我が家では所得制限を超えているのでその恩恵は受けられていませんが、この中途半端な制度によって保険適用への道が遠回りになっていることを懸念しています。今回は、この助成金制度が本当に必要十分な支援となっているのかを検証してみようと思います。

不妊治療助成制度は十分ではない

助成金とは、国や自治体などが、何らかの政策目的達成のために税金を使って対象者を支援する制度ですね。

「不妊治療は保険適用にすべき」という主張をすると「助成金があるじゃん」「支援制度あるんだからいいじゃん」という声をたまに耳にすることがあります。その方たち、どういう中身なのか、本当に意味のある支援になっているのか、ちゃんとご存知なんですかね?そういう名前の制度があるというだけで、そういうこと軽率に言うの、本当にやめていただきたい。(これはマジで声を大にして言いたい)

実際どれくらいの人が活用してるの?

Twitterのアンケートなので統計的な担保はできませんが、413票のうち対象外の方を除いた306票の内訳は以下になります。実に75%の方が対象者、つまり世帯所得730万円以下の世帯ということになります。

有効回答数 306
助成金を受けたことがある 136 45%
まだ受けていないが予定している 95 31%
受けていない(受けられない) 74 24%

実はこの結果はこの記事を書く上では想定外でした。東京で共働きをしていると所得が730万円を超える世帯は結構多いというのが私の周囲を見ていての所感で、治療費を稼ぐために頑張って働いたがために制限ラインを少し超えることになってしまい、結果的に助成も受けられないという声も聞きます。そのため、所得制限によって助成を受けられないという層がもっと多いと想定していたんですね。

実際、本当に高額所得者ならば補助がなくても仕方ないかもと思いますが、我が家のように治療のためには共働きで収入を維持しなきゃいけない家計も多く、稼ぐ努力をした結果、所得は730万円を超えて助成金もなくて・・でも納得できるまで治療を継続することは難しいかもという実態にも全く目が向けられていないことはこの制度の欠陥の一つだと思います。

そして、今回の結果で多くの方が所得が730万円に満たない中で、高額な治療に苦労しているということが分かりました。採卵、凍結、移植を3回以上繰り返すことになれば、仮に助成があっても100万円以上の金額を捻出する必要が出ます。これで十分な支援をしていると言えるのでしょうか?

不妊治療助成金のここがイマイチ

  • 生活費に地域差があるのに、所得制限が全国一律(生活保護だって区分が分かれていますよね)
  • 所得制限が730万円の根拠が不明。東京生活で800万円の所得があっても、正直治療の継続はキツイ。それくらい不妊治療費は高額
  • 所得が同じでも福利厚生等によって必要経費が変わることも考慮されてない(会社員で社宅に数万円で住める家計と、住宅補助がない家計は雲泥の差ですが、そういう生活実態が反映されていない)
  • 対象者が仮に6回助成を上限までフル活用をしても6割程度は自己負担になる(このケースでは保険適用の3割負担とは約100万円の差)
  • 結果的に共働きをするしかない金額の助成のため、助成があっても通院等の治療に専念できる環境を作れない
  • 上記から何を目的とした制度なのか、それを実現できる妥当な金額はいくらなのかがちゃんと検証されているものなのか大いに疑問が残る

というか、同じように保険適用にならない「妊娠・出産」ですけど、出産一時金は健康保険に加入していたら所得制限とかなく全員に出るからね。

なんで不妊は差別されるわけ?

助成金をフル活用しても実質5~6割負担!

ご存知の方が多いと思いますが、不妊治療の助成金制度には大きく2種類があります。今回は地域に関係のない1の国が制定している助成制度のみにフォーカスします。

  1. 国が制度を定めて、都道府県が実施している体外受精・顕微受精に対する助成制度
  2. 区市町村が、独自に定めて実施している助成制度

不妊に悩む方への特定治療支援事業の適用条件

  • 特定不妊治療(体外受精・顕微授精)以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか又は極めて少ないと医師が診断したこと。
  • 指定医療機関で治療を受けたこと。
  • 申請日の前年(1月から5月までの申請日については前々年)の夫婦の合算の所得額が730万円未満であること。

都道府県および市区町村によっては、これに追加の助成制度を設けている自治体もありますが、基本は国の助成制度に追加する形のものが多いため、基準等は同じになるケースが多いです。(もちろん多少の例外もあります)

助成の対象年齢と回数制限

【1回目の助成を受けた日の妻の年齢】  
40歳未満 通算6回まで
40歳以上43歳未満 通算3回まで

治療ステージ別の助成金額(数字は万円表記)

  治療ステージ 初回 2回目~ IVF実費 ICSI実費
A 採卵~新鮮胚移植を実施 30 15 40 50
B 採卵~凍結胚移植を実施 30 15 50 60
C 以前に凍結した胚を解凍して胚移植を実施 7.5 7.5 15 15
F 採卵したが状態の良い卵が得られないため中止 7.5 7.5 25 35
D 採卵後体調不良により移植のめどが立たず治療終了 30 15 25 35
E 採卵したが未受精、胚の分割停止、変性、異常授精により中止 30 15 25 35
G 卵胞が発育しない、又は排卵終了のため中止 対象外    
H 採卵準備中、体調不良等により治療中止    

助成金を活用した場合の自己負担割合は?

助成金を活用するとどれくらいの自己負担割合になるのかを上記の金額からシミュレーションしたのが以下のグラフです。(IVF/ICSI実費は一般的な治療でかかる薬剤代、検査代、診察代なども総合した金額として仮置きしました)

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横軸の日付みたいな表記は(採卵回数)/ (移植回数)にしています。右に行くほど回数が増えていく・・という感じです。これでみると、1回の採卵で妊娠に至る人は保険適用した場合とそれほど変わらない助成が受けられ、自己負担は4割程度で済む可能性が高いです。採卵2回目以降になると自己負担は5割を超え、現時点の私のように採卵4回を超えると自己負担は6割を超えるようなカーブになります。

このように治療を数回繰り返すケースでは仮に助成金があっても保険適用される場合と比較すると約100万円、助成がない場合と保険適用を比較すると約200万円の差が出ます。しかも、これは医療費だけの話であって、他にも通院の交通費、鍼灸やサプリ・漢方などの費用も追加されるケースがほとんどです。この金額の大きさを、制度を作る方々にはご理解頂く必要があります。公務員の家計でも、事情は同じではないでしょうか?(お二人とが国家公務員だったらもっと余裕あると思いますが・・)

今の助成制度で十分と思っている当事者はいない

このように助成金制度は決して十分なものではありません。今対象になる人の所得から想定するには、この助成額では正直足りません。また、今ギリギリで対象にならない人は、結果的に恩恵もなく、より厳しい環境での治療をしているのが実情です。誰にとっても、十分な仕組みとは言えないと思います。

助成の本当の目的は、高額な不妊治療費の経済負担を軽くすることのはずです。「産みたいけれど、治療を受けるお金がない」という問題を解消することのはずです。今の助成金制度は果たしてその役割を果たしているのでしょうか?

もし所得により助成額を区別するのであれば、所得レンジ毎に助成額を変更するくらいのことは必要でしょう。世帯所得が700万円の家計と、500万円の家計は全く事情が違いますし、それは地方と都市部でも意味が全然違うはずです。もしくは、負担額を所得により区別しない他の医療費と同じ扱いにすべきです。(この場合、負担額ではなく保険料が所得により段階的に区別されますね)

不妊治療費は保険適用対象とし、通常の3割負担で治療されるべき「医療」です。これについては「いのちのコスト」というシリーズ記事を書いておりますので、こちらもご参照いただけますと嬉しいです。時間のない方は最終回(第5回)だけでも!