新たに東京都が始めた「働く人のチャイルドプランサポート事業」のキックオフとして2018年6月30日(土)に開催された東京都主催の「不妊治療と仕事の両立セミナー」に参加してきました。
- 働く人のチャイルドプランサポート事業
- セミナーに参加したざっくりの感想
- 取り組みに積極的な企業への報奨金とは?
- メディアでの扱い方は不満
- 事業そのものをまじめに考える
- あるべき制度の姿
- 2019年もセミナーがあるようです!
働く人のチャイルドプランサポート事業
これ自体は本当に画期的な取り組みだと思います。都民から募集した提案により実現した事業とのことで、少しずつ当事者の声が届いているのかもしれないなと思わせてくれます。一応正確な概要は東京都のサイトをご参照ください。
セミナーに参加したざっくりの感想
- 東京都が不妊治療に係る諸問題を社会的な課題と認識し、具体的な取り組みに踏み切ったことは非常に評価できる
- 定員250名の会場は7割ほど埋まっている印象だった
- NPO法人Fineの松本代表のお話は自分の実体験とあまりに重なる部分が多く、正直ちょっと泣いた(それくらいリアルだったし、きっと響いたと思う)
- 一方で事業の目玉である報奨金の条件として整備された休職制度などは「絵に描いた餅」感が否めない
- 費用負担までを盛り込んでいるなど、本当に先進的な取り組みをしている「メルカリ」のような取り組みなどを参考にするべきである
- 今回のように「興味のある企業や人が参加する」形ではなく、強制力のある形での周知を進めることが望ましい(おそらく本当に困っているのはこういった事業にすら興味を持たない、理解のない企業に勤めている人だと思う)
取り組みに積極的な企業への報奨金とは?
不妊治療と仕事の両立支援報奨金 企業に最大40万円!
以下の1から4の全要件を満たすと1社あたり30万円を支給するというもので、3において、テレワーク制度も整備するとさらに10万円を加算。つまり最大で40万円が報奨金として出るそうです。
< 補助要件 >
- 都が実施する研修の受講
- 社内相談体制の整備(上記の研修を受講した両立相談員(男女各1名)の配置
- 社内説明会の実施
- 不妊治療のための休業・休暇制度の整備
4は、以下いずれかの休業制度、または休暇制度を新たに整備し、就業規則等に明文化のうえ、労働基準監督署に届け出ること。
- 不妊治療を理由に取得できる1年以上の休業制度
- 不妊治療を理由に取得できる年5日以上の休暇制度
- さらに不妊治療中の従業員が利用できるテレワーク制度を整備すると+10万円
メディアでの扱い方は不満
ほんの少しニュースにはなってましたが、扱いは小さいもの。もっと踏み込んで報道して欲しいなというのが本音です。
全国の都道府県は、東京都の事業に倣うことも多いのが実態です。だからこそ今回の内容はとても重要なことだと思っています。
そういう意味でも、この内容について、本格的に検討・評価をするべきなのになと。メディアの役割や存在意義はそういったところにあると個人的には思うのですが、やはり残念ではありますねぇ(まぁ、もはや一般マスメディアにそんなこと期待しても無駄なんでしょーけどね)
事業そのものをまじめに考える
事業予算は5500万円だそうです。報奨金が1社最大40万円ですが、他にも研修の開催費用やパンフレットなどの作成などがあることを考慮すると、ざっと100社程度を見込んでいるのかなという数字です。
確か東京都の企業数って25万社とかじゃなかったかな・・・・と思います。仮に9割の企業には対象者がいないとしても2.5万社残りますよね。
あれれぇぇぇ、だいぶ少ないな・・(笑)
以下は個人的な考えですので、すべての治療者が同じ意見とは思いませんが、私は報奨金の要件が「実態のニーズに全然即してないじゃん」という感想を持っています。
- 不妊治療を理由に取得できる1年以上の休業制度
- 不妊治療を理由に取得できる年5日以上の休暇制度
これね、私のように原因不明で何年も治療を続け、混雑クリニックへ通院する不妊のプロにとっては、どちらもあまり意味がないと思っています。
1年以上の休職は以下の点で意味がない
- 毎日仕事ができないわけではないし、月のうち1週間まるまる仕事できる期間もある。よって、フルタイム換算で月20日勤務→不定期で月15日勤務くらいが現実的である
- 治療費を補助していただけないのに無給の休職なんて全然ありがたくない(むしろ稼げない方が困る)
- 精神的には仕事のように不妊治療以外に集中できるものがある方が良い(むしろ休職したら追い込まれるだけ)
- 1年以内に妊娠できる人は一部であり、何の成果もなく職場に戻る精神的負担が考慮されていない
5日以上の休暇制度なんて2サイクル目で使い終わるよ!
- 5日以上と書いたらどの企業もどうせ最低ラインの5日とするでしょうが、実態は半休を合わせても月2日~3日は必要ですけど、どういうつもりでしょうか?
- これがせめて「有給休暇」になるなら少ない日数でも多少意味があると思いますし、前進と言えると思いますが、これは「有休」とする義務はありません。
どうも「高度治療(体外受精)ならそんな長期間の苦労なんてせずに授かるでしょ?」という前提で作られているように思えてならないのです。私のような不妊の中でも落ちこぼれにとっては、より惨めになるような内容です。
どうせやってくれるなら、もう少し考えてほしかったなというのが正直なところ。
こういうのって一度決まるとなかなか変わらないと思うから・・・。でも、ちゃんと事業評価として、声は上げ続けたいと思います。
あるべき制度の姿
個人的な意見ですよ、という前置きをしつつ、私が実態に即していると考える理想形は以下のようなものです。
- 時短/スーパーフレックスタイム制度の確立
- 有休休暇・時間休暇の自由取得環境
- リモートワーク環境の整備/促進
要は取りたい時に時間休暇が取れ、場所を問わずフルタイムの労働時間として定義された月の業務をトータルの業務時間でカバーできれば良いという仕組みが望ましいと思います。
もちろん職種によってはリモートという概念自体がありえない職業だったり、急な調整がきかない職種だったりで難しいものもありますが、そういった職場はコレとは別に実用的な制度を検討すべきですし、特殊な職種以外はこれらを組み合わせることでかなり両立はしやすくなると感じます。
通院のメインが女性であることから、統計局ホームページ/労働力調査で女性の就業職種を見てみると事務が約3割、サービス業・専門技術職を合計すると約4割で、約半数がリモートワーク不可と仮定しても、就業女性の5割程度は下記のような働き方が可能な職種と想定されるのではないかなと思います。
そもそも、日雇いでない仕事は1日単位で区切られるようなものではありません。1週間もしくは1ヶ月の中でその人に合った業務バランスで時間を配分し、会社や上司とコミットした内容の業務を完遂できれば問題ないはずです。
そして、不妊治療だけじゃなく、他の病気を抱える人も、子育てでも、介護でも、副業でも、いろんな人が時間を融通し合って全体でバランスを取りながら働ければいいじゃない?というか、そういう前提で社会を構築していかないといけない時代なんじゃないかね?
事務系、営業系、専門職でも違うし、公務員でも職員と警察官と教師と消防士では全然ニーズは異なるでしょう。
つまり、他社に倣って形だけ同じことをすればいいというものではなくて、職場毎の実情にフィットした制度を構築してほしいものです。