さてさて、不妊治療費が保険適用にならない理由といわれているものについて本当にそうなのか、1個ずつ潰していきたいなぁと思っております。
不妊治療費が保険適用にならない説明に使われる「3大」言い訳
ART(体外受精・顕微授精)を含む不妊治療が保険適用にならない理由として使われる言い訳といったらやはりこの3つではないかと思います。
- 疾病(病気)じゃない
- 産科医療の歴史から(妊娠出産は助成金で賄うという発想)
- 成功率(有用性、効果)が低い
1.疾病じゃない
まだそんなこと言ってるのという感じですが・・。
生殖機能に何らかの「正常ではない状態」が起こっているのは、病気じゃないんですかね?生殖機能じゃない臓器だったら「病気」認定されてますよね。
- WHOの(国際疾病分類:ICD10)において、女性不妊はN97、男性不妊はN46のコードで疾病に分類
- 欧州を中心とした各国はこれに依拠し不妊治療を保険診療の対象としている
これに対して、不妊症は疾病ではないと言える理由教えてくれ。そして、病気じゃないのなら、私が28歳から7年間も妊娠・出産できない理由を教えてくれ。
というか、そもそも同じ不妊治療でもタイミング法など一部の診療は保険適用になってます。なにこの矛盾。説明の辻褄が合ってなくないですか?
2.産科医療の延長だから
これも当たり前のように言われますよね。(根本は1と同じで、そもそも海外では分娩も保険診療なところもありますけど・・。)
まぁ、人工授精くらいまでなら、自然妊娠と仕組みが同じなので、医療じゃないと言い張って助成金対象にしてくれても、それは仕方ないかもしれないですね。
でも、産科医療だって妊娠中に何かあれば保険診療になるじゃないですか。妊娠前に何かあるのも保険診療じゃないんですか?
まぁいいですよ、100歩譲って、ARTが必要な場合でも病気ではなくあくまで産科医療だということにしても。
それならば、出産時と同様に一定額の助成金(採卵までに30万円、移植に20万円とか)を一律全員に出すなら理屈は通るんじゃないですか?
これも、納得感のある説明をしてくださる方がいたらぜひ教えてくだされ。
そう言うと、急に論点が変わって、いやいや出産みたいな確率で成功するわけじゃないから・・という話が出てくるんですよね。
3.成功率(有用性)が低い
はい、そこで今日の本題はこちらです。成功率、つまりその治療法が「効果があるか?」ということですね。
ARTよりも効果が見えないにも関わらず保険適用されている薬剤や治療法はあります。
しかもARTについても基本的に臨床研究を経て認可されている医療技術や薬剤なので、一定の有効性は認められているものです。そこもお忘れなく。
ART(体外受精)が保険適用にならないのは成功率が低いからという言い訳は、ちょっと苦しいと思いますよ~。
というのを以下で見ていきましょう。
ちなみに病気がなく自然妊娠可能な人の1ヶ月あたりの妊娠率は30代前半で約10%と言われています。
ARTの成功率は本当に他の治療に比べて圧倒的に低いのか?
これね、言う人も受け売りを当然のように言うし、聞く方もうっかりそうなのかな~って丸め込まれちゃいそうなんですけど、全然そんなことないんです。
まぁご存知の方も多い話だとは思いますが・・。
ARTの成功率
ARTの妊娠率は40歳までの全国平均で25%、生産率は20%弱ですね。この数字、覚えておいてくださいませ。
しかもこれ日本ではあまり薬剤を使わない卵巣刺激のやり方がまだ残っていたり、着床前診断などの技術を認可してない状態の数字なので、臨床的に既に可能な治療法を世界基準に変えることで改善できる可能性が高いです。
しかも成功率が高い若い人は「費用」の問題でステップアップを躊躇してしまっているという調査結果(参照記事)から、費用負担が大きいことによる妊娠率の低下も一因です。
抗がん剤
抗がん剤の奏功率は平均的にはおよそ10%程度というのが定説、画期的な新薬と言われた超高額「オプチーボ」ですらがんの種類によって差はあるものの概ね2~30%です。効いても効かなくても1人あたり数百万円の治療費です。
出典:「がん治療第4の柱、がん免疫療法」NTT東日本札幌病院:消火器内科(太宰先生)
しかも奏効率20%というのは、「その治療で20%の人のがんが治る」という意味ではありません。
奏功率は「がんのサイズが4週間・30%以上縮減している率」と言い換えることができます。治療後にがんがどれくらい縮小したか、という指標ですね。がんが消えてなくでもその条件に当てはまればその治療は「奏功した」という解釈になるのです。
出典:がん治療の効果をはかる指標「奏効率」とは? |「がん治療」新時代
認知症薬
「効かない薬」の代表格となってしまった認知症薬も日本では保険適用です。とにかく他に標準的な治療法がないので、効かなくても処方するというやり方がまかり通っています。
昨年フランスではついに薬剤としての有用性がないと判断され、保険適用外になりましたね。
出典:抗認知症薬の効果「不十分」 仏、4種類を保険適用外に:朝日新聞デジタル
日本はもちろん保険適用のままですし、おそらく変わることはないでしょう。そんな認知症薬の市場規模も2000億円手前です。
出典:認知症薬2000億円突破へ、21年以降は成長鈍化 富士経済 | ミクスOnline
抗うつ薬
うつ病などの治療に使われているSSRIを中心とした抗うつ剤の売上はざっと1200億円にもなります。こちらも8割の患者さんには効いていない説が。
以下の記事にもあるように、服薬で効いた(回復が見られた)と思いきやプラセボ群でもかなりの人が回復しちゃったというお話。
出典:抗うつ薬は8割の患者に無意味!? : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
もちろん20%程度の患者さんにしか効かないと言われる状況でもしっかり保険適用で処方されまくっています。20%の患者さんには効くから、じゃないでしょうか?ARTと何が違うの??
風邪に対する抗菌薬(抗生物質)
これはもう有名な抗生剤の件。
ここまで意味がないと証明されながらすごい数の医師がまだ処方しているのです。
出典:効かないのに…診療所の6割、風邪に抗菌薬 学会調査:朝日新聞デジタル
そもそも「風邪で病院に行く」という日本の風土が異常という指摘はありつつも、抗菌薬の市場規模ったら約2000億円です、このうちの相当量は不要なのに使われているわけです。
出典:(平成28年薬事工業生産動態統計年報の概要|厚生労働省)
正直、がんも種類によっては外科手術+放射線+抗がん剤をすべて行っても5年生存率が一桁台という厳しい病気もあります。同じように、出来る限りの高額な治療を行っても数年も生きられない難病もあります。でも、その医療が無駄、なんて思う人はいないと思いませんか?
加えて高齢者の終末期医療の話も当然ありますしね・・。
ARTの有用性ってそんな低いんだっけ?
不妊治療(体外受精)の有用性ってそんなに特別に低いんでしょうか?
そもそも100点の状態なはずの健康な適齢期の男女の自然妊娠だって成功確率なんて数パーセントですよ。
し・か・も
先に書いた通り、これは移植あたりの妊娠率の向上が期待できるPGT-A(着床前スクリーニング)が正式認可されていない状態で、です。
さらに日本では高刺激による採卵が可能にも関わらず低刺激による非効率な治療を受けている人も多いのが現状です。
適切な高刺激を受けられる患者さんが増え、PGT-Aが認可されて一般に普及するようになれば、この数字はもっと上昇するでしょうね・・。(例えばPGT-Aを実施している神戸の某クリニックの移植あたりの妊娠率は約70%でしたよね)
体外受精の成功率が他国と比較して圧倒的に低いことと、保険適用にならないことは、実は鶏と卵のような議論なのです。
PGT-Aは採卵あたりの妊娠率が上昇するわけではありませんが、移植あたりの妊娠率は上昇し、流産率は減少します。見込みがないことが分かってスッパリ諦められるという方も出てくると思います。
保険適用の議論がきっかけとなり、そういった現実的ではない治療ならば諦めるといったことも含めて不妊治療にかけるリソースの最適化がなされるということでしょう。
ARTが保険適用にならないのは「成功率のせい」なんかじゃない
もちろん本当に有効な治療も飲み薬だけで完治できる病気も山ほどありますし、実際に日本の医療において多くの治療法は圧倒的な効果を発揮していると言ってもいいと思います。
その一方で、「効果、成功率」という意味でARTを超えない治療法でも保険適用はされていますし、薬しか対処法がなければ効くかどうかに関わらず処方されている現実もあります。
こんなイチ患者でしかない素人の私がちょっと考えただけでも、こんなに出てくるんですよ・・・もっと詳しい方が深堀りしたらこんな闇はゴロゴロ出てくるんじゃないかと思います。
この記事の目的は、そういう効果の低い治療法を保険適用から外すべきだと言うことじゃなくて、ARTだけが成功率が低いから 保険適用にならない、というのはどうもおかしいのではないですか?ということです。
厚労省も医師会も日産婦も、「体外受精などのARTは成功率が低いから保険適用できない」と常套句のように使うし、それを鵜呑みにしてる人も多いけれど、そんな下手な言い訳はやめて現実を見てほしいですね。
一応どれにもエビデンスとなる情報は付与しましたが、もし間違っていればご指摘ください~。