めありずむ

不妊治療・育児・Mr.Children・手帳・雑記ブログ

不妊治療の保険適用や環境改善と同じくらい大事なこと

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保険適用をはじめとした不妊治療の環境改善は社会的な急務・重点事項だと確信しているからこそ署名活動や記事の発信をしている。しかし、それと同じくらい大事なことがあることも、忘れてはいけない。

三位一体の取り組みが理想

不妊治療の保険適用や環境改善と同じくらい大事なことが大きくは2つあると思っています。

  1. 不妊治療を辞める方、不妊と判明し治療を選択しない方に対するサポート
  2. 里親や養子縁組など、治療以外の方法で家族を持つチャンスの拡充

不妊治療を国の重点政策としていく場合でも、治療環境さえ改善すれば良いというわけではなくて、実際は3つのことが同時に整備されていくことでやっと意味のあるものになる、三位一体の取り組みが理想であることは言うまでもありません。

 

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生児を得られずに治療をやめる方も多い

実際、Cumulative Live-Birth Rates after In Vitro Fertilizationのような論文はいくつか出ていますが、この結果によると体外受精を6サイクル実施しても、累積生児獲得率は30代で7割程度。

治療を延々と繰り返す経済力と体力・気力があればもう少し向上すると思われますが決して「ほとんどの人が治療すれば生児を得られる」ということは決してないのが現実です。

これは精子提供・卵子提供およびPGT-Aを選択しない場合の結果なので、日本の現状の治療環境に近いと言ってよいと思います。(新鮮胚移植のみなので低めに出ている部分もありますが、他にもいくつか楽観的因子があるのでこんなもんだと・・)

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【出典: N Engl J Med 2009; 360 : 236 - 43.の結果を基に著者がグラフ作成】

  • 楽観的:6サイクル以降に体外受精を実施しなかった患者が、治療を継続した患者と同じ妊娠の可能性があると仮定
  • 保守的:6サイクル以降治療を継続しなかった患者は出生がなかったと仮定

 

治療中止の選択のサポート

また、検査の結果妊娠が難しいと分かり治療自体を断念される方も、治療費の捻出が厳しくて途中で諦めざるを得なかったという方も一定数いらっしゃいます。

このような治療を諦める・途中でやめるという決断には相当な精神的負荷がかかります。

不妊治療中の患者さんの受けている精神的ストレスががんの告知を受けた方や重度のうつ病の方と同じレベルだということは、自ら治療中止を決断することはおそらく自殺しようと考える方と同じくらいの精神状態ほどに追い込まれるんじゃないかなと想像します。(もちろん人によるところも大きいので、あくまで想像です)

治療を中止するという決断に寄り添い、精神的なサポートをする体制というのは今までほとんど蔑ろにされてきたと思います。でも、それじゃダメなんですよね。

ここにフォーカスした活動も広がりつつある

例えばMoLiveさんは「子どもをあきらめる葛藤、あきらめてからの思いを支える」というコンセプトで活動をされている団体。

NPO法人Fineさんが運営されている「Fine Spica」も同じですね。

 

実子以外の家族を持つサポート

一方で、不妊治療以外に家族を持つ選択肢としては「(特別)養子縁組、里親」といった仕組みが考えられます。

これはあくまで子どもの福祉が目的であり、本来は親になる立場になる人のためのものではありません。

とはいえ、実際には親と子の両方がいてこそ成立する仕組みであることは事実であり、家族のあり方として当たり前の選択肢になることは必要であると思います。

こういったサポートが必要な子どもは日本におよそ3万5千人ほど。一方で不妊治療を中止される夫婦の数は確実にそれを上回ると思われます。

こちらも年々認知度が向上したり、条件が緩和される傾向にはあるものの、まだまだ十分に行き渡っていない政策の一つ。

日本は不妊治療だけじゃなく里親政策も世界最低・・

私は海外にも結構友人がいるのもあって他国の事情も時々聞くことがあるのですが、本当に「里子・養子」というのが一般的な選択肢なんですよね。(特に英語圏は顕著に感じます)

じゃあ実際どうなのかというと、古い数字しか見つからなかったのですが、世界的にも日本の里親委託率の低さが悪目立ちします。各国の10年前の数字と直近の日本の数字を比較しても雲泥の差。

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日本では、里親委託率は増加傾向にはあるものの未だに20%未満。ここに登場する国の平均が60%なので、平均の1/3という超低水準なんですね。

これがアメリカの場合、グループホームや施設にいる子どもはたった12%で、多くは里親や親戚と暮らしているのだそう。(2016年アメリカ 合衆国保健福祉省児童家庭局の発表)

しかも、日本の状況は変わってきつつあるものの牛歩の歩み。このままのペースでは日本の養子事情が米加並みになるには1世紀くらいかかりそうですよ…。

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【出典: 平成30年 厚生労働省 子ども家庭局 家庭福祉課「里親制度」資料を基に著者がグラフ作成】 

もちろん、里親でも実親でもありとあらゆる子育てに関するサポート自体が手薄という課題はあるものの、文字通り「子は宝」となっていく時代に彼らの尊厳を守りつつ大事に育てていくという概念は、誰の子であっても関係ないはずなんですよね。

もっと言えば、産みの親と縁を切ることになる特別養子縁組で生まれたての赤ちゃんを養子に出すようなケースでは産んで手放すことになる方の喪失感も相当なもののはずです。本来はそこまでケアが行き渡ってこそ活きる制度なのだろうとは思いますが。

もう「自己責任」とか言っている時代じゃない、子どもは社会で育てるという意気込みじゃないとホント日本は滅びますよ・・。

多様な生き方や家族の形の啓蒙

このように、政策や取り組み自体が後手後手に回っているという事実は否めませんが、最も日本で生きづらいなぁと感じるのは、やはりこの「不妊治療」「DINKS」「里子・養子」のどれに対しても偏見や差別的な振る舞いがある、ということだと思います。

日本は異常なほど「夫婦には子どもがいて当たり前」と考えられているし、血縁に縛られているなぁ、と。

実際、精子/卵子提供や特別養子縁組など(遺伝子的)ルーツが異なる子どもを持つ事に対する心配事の上位には「将来、本人にどう説明したらいいか不安だ」というものがあります。

アメリカで養子を迎えた友人に言わせれば「どうもこうも、遺伝子上や産みの親は他の人で、育ての親は私達っていうだけのことじゃない?」となるんです(2年治療をして38歳で養子を迎えたアメリカの友人の実話)。

他人の事情に深く干渉しないとか、他人の目を気にしないという元々の国民性はあるにしても、「子どもが養子という場合も(親が養親という場合も)普通にあるよね」という大前提が社会の中に浸透しているからこそ、そんなことに悩まずに済むのだろうと思っています。

実子を持つことも、夫婦二人で生きることも、不妊治療することも、しないことも、それを諦めることも、血縁のない子を我が子として育てることも、全部が当たり前の選択肢であって良い。

私はココに関してまだまだ勉強不足だけど、不妊治療の環境改善と同じくらいとてもとても大事なことだなと思っています。