不妊治療の当事者になると「なんか誤解されてんな~」と感じることが結構多いので、「自分は不妊治療とは無縁」という方にこそ知っていただきたい日本の不妊治療の現状をまとめました。拡散歓迎!
- 不妊なんてマイノリティ(少数派)でしょ?
- 不妊の原因って卵子が老化してるからでしょ?
- 不妊治療すれば妊娠できるんでしょ?
- 日本の不妊治療環境を変えるために必要な事
- この記事を読んでいただいた方におすすめ
我が家は、夫婦とも20代で結婚し特に疾患もない健康体で早くから子どもが欲しいと思っていたものの妊娠せず、妻30歳からクリニックに通院し人工授精で妊娠するも超初期流産、染色体に相互転座があることで妊娠しずらいことがわかり、32歳から治療と仕事を両立するため会社と交渉したうえで体外受精にステップアップし、治療総額は300万円を越えるものの助成金も出ないという日本の不妊治療の困った状況を直に体感している夫婦です。
そんな私達が日々感じている世間からの「不妊治療に関する誤解」について、思いが溢れ過ぎて長くなっちゃったけど、事実をベースにご説明させてください。
不妊なんてマイノリティ(少数派)でしょ?
自分も妊活したらなんとか妊娠できたし、既婚なら子どももいる友達が多いし、職場だって子どもの話題ばっかりだし、っていうかみんな子ども産むから保育園足りないんでしょ?なんて感じで、自分には関係ないと思っている方、ちょっと待った!
20~40代夫婦の5.5組に1組が不妊に悩む
国立社会保障・人口問題研究所が実施している出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)において、夫婦の不妊についての心配と治療経験を調査しています。
それによると、2015年のデータでは20~40代の夫婦の18%、5.5組に1組が不妊に悩み検査や治療を経験したという結果が出ています。そして、その数は年々増加し続けています。
5~6組に1組ということは、あなたのごく親しい友人や同僚夫婦にも、不妊に悩む方が複数組いると言っても相違ないと思いますが、いかがでしょうか?
表立って公表している方は少ないでしょうし、治療の結果すぐに妊娠される方もいますし、多少の地域差や属性差はあるかもしれませんが、ご自身に直接は関係がなくても、不妊治療は思っている以上に身近なものということをまずはご理解いただけると。
妻の年齢が40歳以下の夫婦数は約700万組なので、その潜在数は全国でざっと100万組越え!この人たちが1人でも産めたなら…と思ってしまいます。
今や日本の出生数維持には不妊治療が不可欠
日本の出生数が低下の一途を辿るのと反比例するように、体外受精による出生数は増加しており、2016年時点ですでに年間5万人以上、新生児の5.5%を占めるまでになりました。
日本の赤ちゃんの18人に1人、つまり1クラスに1.5~2人は体外受精で生まれた子がいることになります。
まだ2017年以降の不妊治療に関する統計データがまだ公表されていませんが、直近5年のCAGRで予測してみると、2018年には体外受精で生まれる子が6万人を超えている可能性もありそうです。
合計特殊出生率に占める ART 出生の割合をみると、2014 年の合計特殊出生率 1.42 のうち、ART 出生分が 0.06 である。2008 年から 2014 年までの合計特殊出生率は 1.367 から 1.422へ 0.055 増加しているが、ART 出生分は同じ期間に 0.025 から 0.059 へ 0.035 増加している。つまり 2008 年から 2014 年の合計特殊出生率の 63%(=0.035/0.055)は、ART 出生の増加によるものである。今後の合計特殊出生率がこれまで通り上昇していくかどうかに関して、その趨勢の大半は ART 出生数の動向に依存していると考えられる。出典:生殖補助医療と出生率(林玲子氏(国立社会保障・人口問題研究所)
不妊治療はすでに日本の出生率維持には欠かせない存在になっていると言っても過言ではない状況まできているのです。
不妊の原因って卵子が老化してるからでしょ?
数年前「卵子は老化する」という事実がメディアに大々的に取り上げられたことで「不妊の原因は卵子の老化=女性の高齢化」だけが原因であるかのような誤解が広まってしまったんですよね。
不妊は「卵子の老化」だけが原因ではない
しかし、実際不妊治療を開始した年齢は調査によって差はあるものの概ね60~70%が30代前半までに治療を始めており、極端に出生率が低下する40代で治療を始める方は実は少数です。(ただし、これでも海外に比べると遅めの傾向にはあります)
女性の年齢が妊娠にとって重要な因子であること、年齢と受精卵の染色体異常率が比例することは事実であるものの、数年前から啓蒙が浸透していることもあってか実際の不妊治療患者は20代も多く、それほど高齢ではないということはあまり知られていません。
調査によってややバラつきがあるので2つ掲載しましたが、不妊治療が必要なのは「晩婚」の方だけではないのです。もちろん、極端な例はわかりませんが、生活習慣や体型とも関係ありません。
年齢に関わらず、排卵に障害があったり、卵管が閉塞していたり、卵子をピックアップできなかったり、受精卵の遺伝子が正常に配列されにくかったり、免疫の影響で子宮が受精卵を育めないなど多様な妊娠を阻む障害があるのです。
不妊症は治療が必要な病気である、というのはここに根拠があるわけです。
実際、日本生殖医学会でも年齢因子を含む「原因不明不妊」は不妊原因の1/3を占めると公表しておりますので、「女性が高齢であることによる不妊」は現状不妊治療している人の1/3以下であると言って良いはずです。
もっとも、仮に「晩婚」だとしても経済的、身体的、環境的様々な因子があるわけで、なんでもひとまとめに「自己責任」という発想は非常に危険ということもご理解いただけると嬉しいです。
不妊の原因は男女半々
こちらも未だにご存知のない方が多いのですが、不妊原因のおよそ半分は男性にもあると言われています。要は元気な精子がいないとか、射精障害といったもので、精巣から直接精子を取り出すよう手術なども行なわれています。
しかも、原因になり得る因子は複数あるので1つとも限らないということも重要ですね。WHOの20年前の古い資料ですが、非常に有名で今もよく使用されていますのでこちらもご参考までに!
以上、 不妊の原因は「卵子の老化」だけではない、若くても妊娠が難しい人も結構いること、精子にも原因があるのです!
不妊治療すれば妊娠できるんでしょ?
これもまた多くの方が抱く誤解のように感じます。不妊治療と言ってもその段階は様々で、残念ながら治療さえすれば妊娠・出産できるという容易いものではありませんし、そもそも高額で治療が続けられない人も多いのです。
治療ステップによって負担も難易度も変わる
「不妊治療」と一口に言っても実は内容は様々。治療には段階があって、検査の結果や年齢などを考慮しステップアップしていくという方法が取られています。
原因によっては体外受精・顕微授精でなければ妊娠が難しいというケースもあります。
タイミング法は血液検査やエコーで卵巣の様子を確認する、必要によっては卵子を育てたり排卵を促すための薬剤を使用することもありますが、妊娠するための過程は自然妊娠と完全に同じです。
人工授精は体外受精と混同される方も多いのですが、タイミング法に近いやり方で、違いは精子の扱い。自然妊娠では膣内に射精することで精子を子宮に送り込むわけですが、人工授精では一旦外へ出された精液から元気な精子を抜き出して確実に子宮内へ注入します。よって、こちらも妊娠の原理は自然妊娠と全く同じになります。
体外受精は文字通り体外で精子と卵子を受精させる方法で、シャーレ内で体内環境と同じように精子と卵子が出会うのを待つことになります。顕微授精はそれと少し違い、針を使って卵子に直接1匹の精子を注入して授精させる方法です。これらは高度な技術を必要とするため費用も高額になりますし、卵子をたくさん育てるために自己注射が必要になったり、長い針を卵巣に刺して採卵するため特に女性側の身体的な負担が大きい治療法になります。
また通院回数が増え、拘束時間が長くなることで仕事との両立が難しくなる方も多く、「不妊退職」という言葉が出てくるほど社会的な課題になっています。
不妊治療は非常に高額でほとんどが自費診療
治療さえすれば、と思われる方もいるのですがその治療を受けることさえ難しいのが今の日本の助成制度です。
不妊治療のほとんどが100%自己負担の自費診療。体外受精以上になるととても気軽に取り組めるような額ではありません。体外受精すれば妊娠可能な人でも、経済的な理由で諦めざるを得ない場合もあるのです。
自治体による助成金はあるのですが、共働きには厳しいラインの所得制限で受けられない方も多く(Fineの調査では約4割が対象外)、助成額自体も実際の治療費に対して全く足りていないのが実態です。
費用さえ気にしなくて良いのならもっと早く治療を受けたい、治療を続けられるという方はたくさんいるのです。
しかも、「保険適用には財源がない」と言われますが、人が1人生まれるのに仮に不妊治療で数百万円かかったとしてですよ、日本の一人あたりのGDPは年間およそ400万円(2018年)、日本の平均納税額は年間約70万円つまり22歳から65歳まで納税したら3000万円(もちろん年金や医療保険は別)。
治療を諦めてしまうくらいなら、保険適用をして費用をかけてでも産まれる方がいいと思いませんか?
体外受精をしても確実に産めるわけではない
最終手段とも言える体外受精・顕微授精での年齢別の出産率が出ていますが、35歳までであれば20%前後、40歳を超えると10%以下になります。
これでも自然妊娠(タイミング法による妊娠率が4~8%、人工授精が8~10%)よりは高い数値であることは間違いないですし、次項で触れますが日本は生産率(治療効果)が他国に比べると低いので、ここはまだ改善の余地があると考えられます。
でも数十万円を支払っても、産める確率は決して高いとはいえないという事実、それが多くの人を精神的にも追い詰める原因であることも知っていただけたらと思います。
(これは1治療周期単位で計算されていますので、繰り返し治療を行なうことで確率論的に出産率は上昇しますが、それにはかなりの費用が必要になる、ということです)
日本は世界的にも不妊大国
関係者にとっては有名な話ですが、日本は他国と比較すると体外受精の実施件数は圧倒的に多いのに、採卵あたりの出生率が異常に低いという不名誉な実態があります。
また、こちらは採卵あたりの出生率の話題なので直接的には結びつきませんが、PGT-A(着床前診断と呼ばれる受精卵の染色体を調べる検査)や卵子提供といった選択肢が用意されていないという点も、日本の治療成績を著しく下げる要因になっています。
この不名誉な不妊大国の原因として考えられるのが以下の点です。
- 海外と比較して治療開始年齢が遅い
- 自然/低刺激などの非効率な治療を行なうクリニックが一定数ある
- PGT(着床前診断)や精子、卵子提供という治療選択肢が整備されていない
- クリニックの培養技術等のレベルに大きな乖離がある
治療開始年齢については、大きく2つの因子があると想定されます。
- 経済補助が少ないことによる若年層の治療ハードルの高さ(社会保険適用外、助成金の少なさ/立て替え払いの必要性、民間保険もカバー範囲外など)
- 不妊治療に関する基礎的な情報リテラシー教育の不足、治療実績などファクトに基づく開示情報の少なさ
「体外受精には助成金が出る」と片付けてしまいがちですが、そもそも助成金だけでは足が出ることがほとんどですし、治療を数回繰り返す場合には治療費の半分もカバーされない状態になります。
また、30万円~80万円程度のまとまった金額を一旦支払わなければいけないというのは、特に若年カップルにとってはかなりの負担です。
日本の不妊治療環境を変えるために必要な事
このように日本の不妊治療は「もはや珍しくはない、出生数にとっても重要」な位置付けになっているにも関わらず、まだまだ環境に改善の余地がある領域です。
言い出せば是正すべき点は止まらないほど出てくるけれど、改善のために特に重要と思うことは以下の5つです。
- 生殖医療に関連する法整備
- 保険適用等による患者経済負担の低減と国の治療環境への介入
- 治療ガイドラインの整備およびPGT-Aの認可
- クリニックの治療実績の開示
- 培養士の国家資格化など技術格差の是正
これらをひとまとめに改善し得る方法が「保険適用」の是非を検討する議論だと考えています。もちろん年齢や回数の制限を設けた現実的なラインを条件に、です。
なぜなら、保険適用を考えるならばより現実的に治療成績を上げる方法を取らざるを得ないからです。今はあくまで費用は患者負担、助成金も自治体任せなので国が本気で取り組むことはない、それが現実です。
日本の社会保障が限界まで圧迫されていることは周知の通りですが、80歳以上の高齢者にかけられている高額医療費(抗がん剤や高度な手術、延命治療など)が医療費の多くを占めているのもまた事実です。
国としての優先事項が人口減少の抑制であり、国家機能の維持ならば、今医療の力を借りれば産み育てられる夫婦に投資をすることは必要不可欠でしょう。
子どもを産め産め、と闇雲に言う前に、産みたいけれど医療の補助が必要という私達に、もっと目を向けて、経済的・環境的なサポートをしていただけないでしょうか?
誰に頼まれるでもなく産みたいと考えている夫婦が数十万人もいること、そしてその多くの人が生殖補助医療で出産可能であることは、日本にとっては希望のはずです。
国が本気で取り組めば、つまり保険適用等で若いうちから治療を受けやすい制度を整え、ガイドライン等で治療水準を上げ、他国と同レベルの治療効率を実現すれば出生数を維持することは可能なはずです。それくらい産みたいけれど医療のチカラが必要な夫婦がたくさんいます。今ならまだ、手の打ちようがあります。
政府にこれらの提言を提出するためのオンライン書名活動をしておりますので、ご賛同いただけると、とても励みになります!よろしくお願い致します。
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