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着床前診断(PGT-A)のキホン

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不妊治療(高度生殖医療)を受けている人たちの多くが願っていることの一つが日本における着床前診断「PGT-A」の正式認可です。

今回はこれをまとめて体系的に理解しておくことを目指して整理してみました。

※ 当記事は専門的な監修がなされているわけではございません。

 

着床前診断(PGT-A)とは

何度かこのブログでも触れていますが、PGT-Aは体外受精・顕微授精の際に子宮内に移植する前の受精卵の染色体数を検査するもの。(つまり妊娠前に行う)

PGT(着床前診断)の中でも主に受精卵(胚)の染色体の異数性(数が正常に対になっているかどうか)を見る検査のことです。

  1. 染色体の数が正常でないとそもそも着床しなかったり流産してしまい、無事に生まれるまで成長できることは非常に稀(染色体の番号による)
  2. 染色体の数に異常がある胚は年齢が上がる毎に増え、35歳ではおよそ半分近くが異常胚になる
  3. すでに世界では、治療の合理性を重視し、このPGT-Aを行うことが不妊治療における治療のスタンダードになっている
  4. 妊娠初期に胎児に対して行われる出生前診断(NIPT)とは異なる 
  5. 日本では日本産科婦人科学会が全面的な導入を禁止しているため、「検査で明らかに異常とわかる胚」を移植することで、反復着床不全や流産で時間もお金もロスしている夫婦が多くいる
  6. 人によって、年齢によっては受精卵のほとんどに異常が見られるケースもあるが、傾向としてはこちらをご参照ください▶染色体数が正常な胚盤胞の割合について (東京HARTクリニック)

PGT-Aも着床前診断の一部なので、ざっくりした着床前診断の用語解説は以下の記事をご参照くださいませ。

検査手法

この着床前診断は歴史的に具体的な手法がいくつかあるので、その辺を整理しておきたいと思います。

論文などを読む際も、どの検査方法が取られているかによって結果の精度が異なりますので、その点要注意。

現在、最も精度が高く、世界的に(日本でも)PGT-Aに利用されている手法は次世代シーケンス法(NGS法)です。

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*今回は特定遺伝子の検査であるPCR法は対象外としました

PGT-AのSTEPと手法

ここでは体外受精・顕微授精に関する一般的な内容は理解されているという前提で、PGT-Aが実際どのように行われるのかを簡単にまとめました。

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画像出典:胚盤胞の成長- 不妊治療専門 台湾コウノトリ生殖医療センターBlog

PGT-Aでわかること

PGT-Aでわかるのは基本的に染色体の異数性(数の異常)です。表現のパターンとしては以下のいずれかが当てはまり、「ノーマル」がいわゆる「正常胚」なります。

つまり、この診断を受けることで「出産することが難しい胚」の移植を避けることができ、表現を選ばずに言えば「無駄な移植」を回避できるというのが最もコアな効果です。

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出典:「着床前診断検査(PGT-A)の基礎知識と細胞分離手技」より引用

PGT-Aのリアル

ということで、PGT-Aに関する現実的なところを一旦おさらいしてみようと思います。

  • 移植あたりの着床率を向上させ、流産率を低下させることができる
  • 胚盤胞に到達しなければ検査をすることができない
  • 採卵あたりの妊娠率には影響しない(異常胚であれば移植できないため)
  • 正常胚での臨床妊娠率はおよそ65~70%という報告が多い(つまり確実に妊娠するわけではない)
  • この理由として、PGT-Aを行う際の「胚がダメージを受ける場合があること、胚以外の着床障害・不育因子がありえることなどが挙げられる

産科婦人科学会に所属されている先生方におかれましてはホント誤解しないで頂きたいのですが、患者がPGT-Aの認可を求めているのは「出産できる見込みのない胚を何度も移植する、時間的・費用的・身体的・精神的負担を低減したいから」であって、 PGT-Aをすれば必ず妊娠・出産できるからなんて思ってるからじゃないですよ・・。

そして、誰でもPGT-Aを受けるべきなんて言ってなくて、「患者が治療法の選択肢として選べるようにする」という必要性を言ってるだけですよ。

ASRM(米国生殖医学会)の公式見解としても、PGT-Aが魔法の技術ではないということは明確に打ち出されていますし、そんなことは百も承知です。

ちなみにすごく先進的な技術と思われる方も多いでしょうが、世界初の着床前診断による出産は1990年、日本では2004年で、その手法や精度は進歩しているものの決して新しい概念や検査という訳ではありません。

流産率を低下させるというのが、患者にとっては最も大きなベネフィットの一つです。詳しくは以下の記事もご参照ください。

PGT-Aの課題

このように、メリット・デメリットの両方が存在する訳ですが、現時点のNGS法で解決できていない主要な課題も理解しておきたいと思います。

2020年は春にもNIPGT(無侵襲的着床前遺伝学的検査:NonInvasive Preimplantation Genetic Testing)のリリースがあるかもしれないというニュースも目にしましたので、ここは新技術に期待ですね。

  • 胚へのダメージ
  • 初期胚での検査(正確性)の難しさ
  • モザイク胚、偽陽性・偽陰性の発生(検査するTEの染色体と胎児になるICMの染色体に差がある可能性)
  • コスト負担・対応医療機関の技術格差

その他PGT-Aの気になる問題

PGT-Aの正確性

以下の胚盤胞のPGT-Aの正確性をインビトロの長期培養系で調べた論文では、胚盤胞のPGT-A(NGS法)にてモザイク胚とされた胚での偽陰性はなく(本当は異常なのに正常と診断される確率)、偽陽性が19%(本当は正常なのに異常と診断される確率)。胚盤胞のPGT-Aの診断精度は80%で、もしモザイク胚を除外すれば診断精度は100%だった。

つまり、正常胚は正だが、モザイク胚は7割に正常胚が含まれることを示している。したがって、モザイク胚の取り扱いは慎重にすべきとしているが、モザイク胚の定義が曖昧な点は論文中でも触れられている。

出典:Extended in vitro culture of human embryos demonstrates the complex nature of diagnosing chromosomal mosaicism from a single trophectoderm biopsy | Human Reproduction | Oxford Academic 

PGT-Aにより出産した子どもの予後

PGT-Aの予後(生まれた子の健康等に関する調査)については、今も続々と研究が出てきている段階で大規模かつ長期にわたる前方視的検討が必要ではあるが、現在のところ出産および出産児への有意なダメージはないものと考えられている。

出典:Neonatal outcomes of live births after blastocyst biopsy in preimplantation genetic testing cycles: a follow-up of 1,721 children 

 PGT-Aに関するその他の記事

 

今回の参考文献

基礎知識に関しては以下の専門書を参考にさせていただきました。ちょっとずつ、エンブリオロジストに近づいている気がする(笑)

着床前診断検査(PGT-A)の基礎知識と細胞分離手技

着床前診断検査(PGT-A)の基礎知識と細胞分離手技

参考にしたWEBサイト