不妊治療の金銭負担について聞いたアンケートの結果と頂いたコメントから「保険適用派」としての見解をまとめさせて頂きました。
Twitterでぶっちゃけどう思うか聞いてみた
ぶっちゃけ不妊治療の金銭負担についてどう思う?
— Mary (メアリー) (@maryism_mary) 2019年2月1日
・不妊に悩む夫婦は5.5組に1組
・体外受精で生まれる子は年間5万人超
・体外受精は1サイクル4-50万円
・治療費総額の平均は約200万円
・自治体の助成金は地域差/所得制限/年齢/回数制限あり#拡散希望#細かいことは置いといて
1647名の方に回答いただきました(ありがたい!!)ちなみにこのアカウントからのアンケートなので、回答者の多くは不妊治療の現役・卒業世代もしくは妊婦さんが多いと思われます。
91%が何らかの経済負担の改善をすべきと答え、66%は保険適用が望ましいと回答しました。
現状で十分という方が6%(98人/1647人)いらっしゃったのですが、仮説は2点です。
- 不妊治療に理解のない方も一定数含まれていそうということ
- ブロガーの歌さんが別途実施された不妊治療アンケートの回答を解析したところ、現状で十分と回答した方のほとんどが治療開始時点の貯蓄額などが多い結果だったため、経済的な負担の感じ方が比較的少ないのではないか(個別にヒアリングまでしないと正直わかりませんが・・・)
また、コメントから助成金を選択されてる方はどうも消極的理由(保険適用を求めても時間がかかるだけ、や現実的じゃなさそうだから)が目立つように思いました。
不妊治療が保険適用になるとどうなる?
基本的には、みなさんが一般に受けている医療と同じで、私達世代だと会計での支払いが3割負担になるというものです。欧州や米の一部の州を中心に不妊治療を保険適用とする先進国が多いというのは周知の事実ですね。
- 現状ほとんどが10割負担 → お会計が3割負担で請求される
- 治療内容毎に「診療報酬」という全国一律の点数が設定される(どの病院で受けても原則同じ料金になる)
- 診療報酬の設定がないものは自費診療となり従来通りの10割負担
コメントとして頂いたご意見に対する個人的見解
年齢や回数など一定の制限を設けた上で保険適用にすべきという声
年齢制限は40歳まで等に制限する必要がある
賛成です。もしくは、年齢によって自己負担比率を変えるというのもアリだと思いますし(34歳以下は自己負担2割、40歳までは3割とか)これは今の保険証の生年月日を正とした年齢確認と医科レセプト(診療報酬)制度であれば十分に運用可能であると考えます。
回数制限をする必要がある
基本的に賛成です。成果の出ない治療を永久に続けることは財政面からも医療施設のキャパからも難しいので、体外受精でも採卵は4回まで、移植は6回までといった制限も現実的には導入する必要があると思います。これを実現するために必須なのは以下の2点だと思います。
- PGT(着床前診断)による「異常胚は移植しない」という選択を確立すること(受けるかどうかは患者の判断)
- 医療機関をまたがる治療の管理を行うためのマイナンバーによる個人レセプト情報の一元管理システム(これ、国が動けば技術的にそこまでのハードルはないと考えています)
保険適用になったら(金銭負担が減って)諦めがつかなそうだ
上記のような現実的な一定の制限を設けることで、不妊治療の泥沼に入らず次のステップに進むという考え方は成り立つのではないかな?と思います。
むしろ「保険適用の範囲で治療を頑張ってみよう」という一つの線引がしやすくなるのではないかとさえ思いますが、いかがでしょうか?
もちろんその後の生き方の選択肢ももっと広がるべきだし、多様な生き方が受容される社会というのは不妊だけじゃなく日本が抱える課題の一つですが・・。
治療方法の自由度低下を懸念する声
体外受精以降は治療方法を選べることが大事なので、保険適用での画一化は避け、自己負担が増えてもオプションは自己判断したい
これは心配無用だと思います。
保険適用で必要な「標準治療の範囲」というのは他の病気でも定義されており、不妊治療に関しても検査や治療ステップは原則的には既に確立されています。(だからみんな似たステップで治療が進んでいくんですよね?)
一方で、治療内容はあくまで患者の状況により判断されていくもので、保険適用=全員に画一的な治療を強いるということではありません。(そんな構図ならほとんどの医療は崩壊しています)
保険適用の疾病も、いくつかある選択肢の中から医師が適切と判断した方法や薬剤が選択されて治療が進みますし、いわゆる先進医療と呼ばれる「オプション」的なものは自己負担(民間の医療保険等でカバー)で追加することもできるという仕組みは、不妊治療でも十分に成立し得ると思います。
「標準治療」を定義するのに時間がかかり、日進月歩で進化する治療の足かせとなってしまう可能性が高い
上記と同じですが、検査結果により「AIH(人工授精)」か「IVF(体外受精)」か「ICSI(顕微授精)」を行うという原則的な治療方法に加えて、男性不妊の場合やPGT(着床前診断)、子宮内環境関連など、既に有効性が実証されているものについては標準治療=保険適用の範囲とし、それ以外の新しい技術など効果の実証がされていないものについては、自費診療の対象として良いのではないかと思います。
正直、不妊治療だけでなくすべての領域において医療技術は日進月歩です。
まずは先進医療として自費や治験で取り組み、効果が認められれば保険適用として診療報酬が設定されるという流れはどの分野でも当たり前に行われており、決して不妊治療の分野だけが特別な領域ではないと考えています。
クリニックの混雑や患者増加を懸念する声
保険適用になったらクリニックは今より混むのか?クリニックは減るのか?
これは2つポイントがあると思います。
1つは患者(治療する人)は増加するだろうという点。助成金の場合は先に自分で支払い、申請後に助成金が還付される仕組みのため、結局始めの段階で40万円、50万円という費用を捻出する必要があり、ここがネックになって治療に踏み切れない人は一定数いると思われます。また、保険適用で「不妊治療も必要な医療」という認識が広がることで初めて治療を受けたいと考える人もかなり出ると思います。
じゃあ今の医療キャパシティで足りるのか、というと地域によっては正直提供側が追い付かないという懸念はあります。
一方で、参入するクリニックも増えると思われます。病院経営の観点から妥当な診療報酬が設定されれば潜在的患者数から想定するに経営自体は安定する公算が高いので、今の産婦人科から不妊治療も行う施設は増えると考えています。
ただし、それにより知識・医療技術に今よりも格差が広がってしまうリスクはありますので、特に胚培養技術の技能レベルを一定化させることや、変な持論で治療を進める医者が出ないように取り組むという課題は必須要件になると思います。(これ、実際は今もあるけど誰も何も言わないだけだと思うんですよね)
生活保護家庭が無料で不妊治療できるはおかしいのでは?という声
ご存知の通り、「生活保護受給者は医療費が無料」という言い方が一般的に浸透しているためにこのような感覚を持たれているのではないかと思いますが、彼らは社会保険料を納めている人が使う「社会保険制度」とは違う「医療扶助」という制度を使っています。
申請形態等が異なりますので、実務的な話で言えば「不妊治療は医療扶助の対象にはしない」という形を取ることは可能であり、それが不妊治療を保険適用にすべきではないという理由には該当しないと思います。
現実的に医師会が許容しないだろうから望むだけ無駄という声
医師や医療施設に直接影響のない助成金の方がスムーズだと思う
これも事実だと思います。医師側の反発を考慮すれば、助成金の所得制限撤廃の方がよほど実現性は高いように思えます。その意味で保険適用に向けた準備期間として暫定的に助成金で対応するのは良いと思います。
ただ、私は以下の点で助成金で妥協してはいけないと考えています。
- 保険適用という費用対効果(治療成果)が求められる状況に晒さなければ、日本の「不妊大国」の現状は打破できない
- 各クリニック間の費用格差・技術格差があまりに大きい現状は、地域や経済力による医療アクセスの平等性に著しく欠ける
- 国民の「社会保険料を使いますよ」という宣言により、不妊治療があたりまえの選択肢であるという意識を社会に浸透させる必要性がある