以前から何度か触れていますが、不妊治療の施設別の実績等は一般にも開示されるべきだと考えています。今日は、これが難しいと思っていらっしゃる皆様にお伝えしたいこと。
がん治療の成績は施設別に開示されている
昨年結構ニュースになって、経済誌で特集が組まれたりもしたのでご存知の方も多いとは思いますが・・・。
全国に約250施設あるがん診療連携拠点病院って、施設別癌種別ステージ別に患者数・死亡数・5年生存率等の情報が開示されるようになったんです。
がんの5年生存率なんて言ったら、生死に関わる患者にとってはめちゃくちゃ気になる数字。不妊治療において施設別の情報開示ができない理由として使われる「数字だけを切り取ってミスリードされたら困る」なんて話の最たるものだと思うんです。
不妊治療の実績も患者にとっては死活問題だけど、がん治療の実績も患者や家族にとってはどうしたって気になる数字です。
それでも国は2018年にがん対策推進基本計画に則って情報開示に踏み切ったんですね。
平成30年3月に閣議決定された第3期がん対策推進基本計画では、「国は、国民が必要な時に、自分に合った正しい情報を入手し、適切に治療や生活等に関する選択ができるよう、科学的根拠に基づく情報を迅速に提供するための体制を整備する」としていることから、2011年診断例に引き続き、2012年診断例についてがん診療連携拠点病院等のデータを用い、5年生存率より早い段階の3年生存率集計を行いました。2012年3年生存率集計報告書では、これまでの集計部位に加え、喉頭、胆嚢、腎、腎盂尿管の4部位について新たに生存率を集計しました。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計」より引用
なぜにこんなリスキーな数字を開示したのか?
引用文にあるように、「国民が必要な時に、正しい情報を入手し、適切に治療や生活に関する選択ができるように」です。
それがあるべき姿であると認めたわけですね。
不妊治療は生に関わる疾病、死に関わるがんと同じくらい重たい判断がなされますし、どちらも患者は藁にも縋る思いで治療してくれる施設や医師を探しています。
注意書きを出すことでミスリードの懸念を回避
同じくらい数字の一人歩きが懸念されるのに、がん治療の成績はなぜ開示できたのでしょうか?
まず、ファイルを開こうとすると以下のような注意書きが出ます。
「診ているがんの種類によってや患者属性によって生存率は変わるので、それだけで施設の良し悪しを論ずることはできません」
という、至極当然ながら絶対に認識されるべきことを毎回アラートしているのです。
がん腫は限られるものの病院の特徴はわかるデータ
そして実際に見られるデータは各病院のがん種(この画像では肺がん)別に
- ステージ別の対象数(患者数)
- 死亡数
- 把握状況
- 実測5年生存率
- 平均年齢
などが開示されているわけです。
加えて、どんな属性の患者さんが多いかといった概要もわかります。単なる「生存率」だけを出しているわけではありません。
つまり、自分のがん腫やステージ、年代なども参考にその病院の特徴をある程度掴むことができるわけです。(実際は所属するDrの専門等も併せて判断していくと思いますし)
がん治療と不妊治療は共通項が多い
以前からがん治療と不妊治療は「生」と「死」に向き合う治療という違いはあるものの、共通項がかなり多いと感じていました。
- 高度な治療を請け負える施設が限定されること
- 先進的な技術が次々登場する領域であること
- 民間療法というかナラティブベースドな治療法が結構な勢力が蔓延っていること
- 治療と仕事の両立などの課題が似ていること
- 当事者以外には基本的な知識さえ知られていないものが多いこと
- 決して楽観視できるような医療成績ではないこと などなど
がん治療は保険適用がされていない治療法を採用している施設もあります。医師や施設間の技術格差も正直大きいです。それでも、国民(患者)の利益になるという判断で、施設別の成績開示を行っているのです。
がん治療でこれができて、不妊治療ではできない理由があるのでしょうか?
医療全体を見ていると、なんで他の領域ではできて不妊治療でできないんだ?ということがたくさんあります。
不妊治療だけが特別な医療なわけではない、という点は非常に重要なポイントかなと思っています。