私達のりプロダクティブヘルス/ライツを保障し、不妊治療の経済負担と、社会的認知、そして国が医療内容に介入することで治療環境を改善するため、不妊治療費の保険適用を強く望んでいます。その中でも今回は経済負担にフォーカスして考えてみました。
- 不妊治療はお金がかかる
- 日本における不妊治療の医療費はいくらになるか?
- 保険適用で敷居が下がった場合、最大でも2兆円程度?
- 不妊症は「病気」なんです
- 保険適用により想定されるメリット
- 少子化に貢献できるのか?という問いに対して
不妊治療はお金がかかる
ネットメディアが300人を対象にした調査結果で、高度不妊治療の平均費用は193万円という結果が出ていました。我が家は治療2年目で総額150万円、ただしそのうちの120万円は体外受精にチャレンジするようになってからの7ヶ月間での費用です。まともに採卵・移植を続ければ年間200万円は必要になる計算です。
我が家はお互いの仕事を重視するため東京都心に住んでおり、仕事と有名クリニックへの通院をなんとかこなせる状態ですが、恥ずかしながら年間200万円という金額の捻出は、これまで貯金や資産運用や親孝行の家族旅行に回していたものがなくなってしまうような金額で、何年もこの状態の生活と家計を続けるのは将来を考えると厳しいなぁというのが現状です。
もちろん、もっと早くに授かる方もたくさんいらっしゃると思いますが、明確な不妊原因が分からず、年齢もまだ十分に妊娠可能な30代の我が家のようなケースでは「治療をやめる」か「妊娠」できるまで何年もこの状態を続けている方がたくさんいらっしゃいます。
その逆に、経済的に難しいという理由で治療の継続を断念される方、治療に踏み出せない方がいらっしゃるのも事実です。まして今の出産世代は高齢化やバブル後のあおりを受けて就職難やら社会保険料の増額やらを真正面に食らっている上に、これからそんな社会の中で子育てをしていこうとしている人たちです。治療にお金を使い果しても大丈夫なわけはなく、その後の子育てや老後まで心配しなければいけない世代なのです。
不妊治療の経済的な負担は大きいと言わざるを得ません。
日本における不妊治療の医療費はいくらになるか?
たったの2000億円?
では、日本の不妊治療費は全体でどれくらいの規模なのか?特に数字があるわけではないのでざっくりの推定ですが、現状の不妊治療の医療費はざっと2,000億円程度になると思われます。
日本産婦人科学会によると2015年の高度生殖医療の実施症例数は約42万件。文字通りの右肩上がりで実施件数が増加傾向にあります。
このうち、IVFの単価を30万円、ICSIの単価を40万円、FET(凍結胚移植)の単価を15万円と仮定すると高度生殖医療費だけで約1,157億円になります。排卵誘発や黄体ホルモンなどの関連薬剤費は推定で年間570億円。これだけで1,700億円になります。ここに通常の診察代や人口授精(AIH)、血液検査等の費用が追加されますので、症例数が増加している点も加味すると現時点で2,000億円程度かなという算出方法です。
保険適用で敷居が下がった場合、最大でも2兆円程度?
妻の年齢が29歳以下 | 1,257,919 |
妻の年齢が30~42歳 | 6,705,335 |
妻の年齢が43歳以上 | 21,915,882 |
治療対象年代の1/6 | 1,117,556 |
出典:平成27年国勢調査人口等基本集計(総務省統計局)第17表 夫の年齢、妻の年齢別夫婦数(総数及び日本人)
医療機関のキャパとして現実的ではありませんが、この110万組が一気に治療を受けたとして1組あたりが平均の治療費200万円(*1)かかると仮定した時の医療費は約2.2兆円、保険適用で3割負担になると1.5兆円となります。
高額療養費の適用になるかや、年齢制限や回数の制限を設ける必要性については議論の余地があると思いますので細かいことは割愛しますが、多く見積もっても年間最大で2兆円、ということです。(実際希望する人の数と医療施設のキャパから言うともっと少ない1.5兆円程度が最大だとは思いますが・・・)
(*1)冒頭の1組平均193万円を用い、1年間にIVF3回、FET4回を行った場合と想定して算出(30万×4、15万×4=180万円+αで200万円)
この2兆円が捻出できれば保険適用で迎えられるいのちがたくさんある、と言ってよいと思います。ちなみに、自治体による助成金制度はありますが、所得制限や金額、回数制限等はマチマチで、東京都に住む私の場合には全くその恩恵を受けておりません。
不妊症は「病気」なんです
不妊症は病気じゃないって誰が言ってるの?
他の疾病と比較してみても納得感はない
保険適用により想定されるメリット
保険適用によるメリットの最たるものはもちろん経済負担の減少です。その費用を出産後の子育てに充てることができれば、「産みたい」と考える人は増やせるかもしれません。
保険適用されることで「病気」と向き合っているのだという周囲からの認知・理解が得られやすいと考えます。個人的には、この話題は他の病気と同様に社会の中であまりクローズしない方が良いと考えています。不妊症とその治療に対する理解が高まることは、仕事の面でもそれ以外のコミュニケーションの面でもメリットは大きいはずです。
少子化に貢献できるのか?という問いに対して
なぜかは分かりませんが、こういう議論をすると必ず「不妊治療をして少子化に貢献できるのか?」という論点を持ち出す方がいます。結論から申しますと「まだそんな的外れなことを言ってるの?」という話なのです。
というのも「少子化対策」というと、今でもなぜか日本の人口構造を理想だった30年前に戻すのがゴールと考える方が多いようなのですが、そんな日はほぼ永久にやってきません。
現時点で出産適齢期の人が全員、明日から突然ぽんぽん妊娠・出産して出生率が4%(第1次ベビーブームと同等)になったとしても、人口構造を戻すにはこれから60年かかるというのが厚労省の試算です。つまり、出産できる女性の数が、すでに圧倒的に少ないということ。
不妊治療と少子化は全く次元の違う話であり、少子化対策として不妊治療を行うわけではない、ということも頭でっかちの方々に理解していただく必要があると感じています。
不妊治療を保険適用すべきとする理由はれっきとした治療が必要な「病気」であるからであって、日本の少子化を食い止めるために有効だからではありません。
ただ、付け加えるとすれば現在日本の年間出生数は100万人を割っています。不妊夫婦110万組のうち10%の11万人が毎年出産できれば、年間出生数は100万人台を回復、維持していくことができます(5%の5.5万人でも十分ですね)。
結婚して家庭を築き、子どもを産もうとする人が減少している中、子育てしにくい国だと分かっていても産みたいと願う人をサポートするのは国家にとっても決して無駄にはならないと思います。
おわりに
長々とお付き合いいただきありがとうございました。まともに書くと5000字オーバーというちょっと読むのも疲れるレベルの記事になってしまいそうだったため、予告と一部内容を変更させていただきました。「助成金」じゃ意味がない、という話は別の機会に書きたいと思います。
さて、非常に個人的な見解ではありますが、次回はこの続きとして、不妊治療を保険適用にした場合の2兆円をどのように捻出するのか?について考えたいと思います。
シリーズ:いのちのコストは、個人的な意見を交えつつ理論的かつ心を込めて、不妊治療の保険適用について社会や政府に訴えることを目的とした記事です。
ぜひ記事のブックマークや読者登録をしていただけますと励みになります。
続きの記事はこちらからご覧ください。