不妊治療をしていると耳にタコができるほど聞く「卵子の質」ですが、結局「質」とは何を指しているのかいまいちピンと来ませんよね。国内では思うような回答が得られなかったので、海外のサイトを探してみました。
卵子の質に関する医師からの説明
私が過去に通院した2施設で、2名の医師に「卵子の質」についてコメントを頂いたことがあります。
1.医学的に効果が認められてる「卵子の質」を改善する方法はない。医学的に有効な方法があれば、我々も是非治療に取り入れたいが、「ない」と言うしかないのが現実。(GLC)
2.「卵子の質」はイコール年齢である。AMHが低い場合「数」は少ないので卵巣年齢としては高齢と判断するが、「卵子の質」は年齢相応と考えて良い。(KLC)
この2点は表現方法は違えど、同じことを言っていると解釈しています。ただ、どちらも「質」という言い方を掘り下げて聞いたわけではないので、それを調べてみました。
日本受精着床学会のQ&A
Q10. 卵子の質、胚の質とはどういう意味ですか?/生殖補助医療技術 ART(アート)って何?|日本受精着床学会
はい、これをみて、「は?そういうこと聞いてるんじゃないんだけど?」って思いませんでした?(笑)
日本生殖医学会のQ&A
一般社団法人日本生殖医学会|一般のみなさまへ - 不妊症Q&A:Q20.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?
こちらの方がやや間接的ながら「質」というものを捉えられる回答になっている感じがします。
卵子の質って結局何?
結論から言うと、卵子の質という言い方をされているものは要は「正常な遺伝子構造を持った卵子かどうか」ということ。
- 妊娠に重要なのは「卵子の数」と「卵子の染色体が正常であること」の2つである
- 「質のいい卵子」とは染色体の構造が正常な卵子のこと
- 「質の悪い卵子」とは染色体の構造などに異常がある卵子のこと
気づいたこととして「卵子の質を改善できることが明らかな方法はない」とする主張と、「食事、サプリ、運動、ストレス低減で改善しよう!(日本と同じ)」という主張の2つが存在しているということ。
しかし後者では日本でも同じですが、「成功例」のような記載はあるものの、何らかの統計的に有意であるというエビデンスを見つけることは出来ませんでした。サプリなんかを売る会社は一生懸命「卵子の質」を良くできる、ということを書いているのですが、どういう作用で何が起こるのかを具体的に書いているものは残念ながらなかなか見つかりません。
卵子の質とは遺伝子的に正常な卵子の割合のこと!
この答えを掲載していたのは、extend fertilityというアメリカの卵子凍結をする企業なので、多少極端なことを言っている可能性も否めませんが、医師のコメントに近いこととエビデンスが明確であることから一定の信頼性をおけるものを判断して掲載しております。
また、あくまで統計的なデータではありますので、もちろん実態としての個人差は必ずあると思いますので、その点はすべての方に当てはまるとは言えないこともご理解ください。
- 卵子は私たちが生まれる前から持っているもので、他の遺伝子と同様に、熱、感染症、ストレス、毒素など、私たちの生活のいたるところであらゆる種類の有害な、しかし避けられない影響を受けている。
- そして、卵子を含むヒトの細胞は壊れやすく、細胞分裂の際にDNAにおける「ミス」を引き起こす可能性がある。(これが染色体異常であり、細胞によってはガンなどの原因にもなる)
- 細胞のDNAが破壊されると、医学的に治癒することはできない。それはつまり一度異常が発生した卵子が再び正常になることはなく、卵の質を改善することは医学的には困難である。細胞分裂の回数が増えるだけ「ミス」の発生は多くなるため、年齢が高くなるほど遺伝子的に異常卵の割合が高くなるのは必然と言える。
- 卵そのものの品質のテストはなく、受精卵の胚について遺伝子検査をする方法に限られる。しかし、DNAの損傷は誰にでも必然的に発生するため、年齢によって、卵子の何パーセントが正常であるかをかなり正確に把握することが可能。
*グラフは「年齢別正常卵の割合」 extendfertility.comより抜粋
- 20代の女性は、70%以上が正常な卵子ではあるもののすでに異常なものがいくつか存在する。(それが妊娠率100%にはならない理由)一方で40代の女性は、いかに健康的に生活しているかにかかわらず、そのほとんどが遺伝子的には異常な卵子ということを示している。
- 排卵または採卵した卵子が正常であれば、健康に妊娠・出産が可能だが(40代でも10%前後の正常な卵子の時ならば希望はあるとも言える)、異常な卵細胞の場合には、通常は子宮内で着床ができないか、その後成長ができず流産になるか、まれに、ダウン症などの遺伝子的な病気を招くことがある。
結局、妊娠は「卵子の質」に依存するというエビデンス
これも私は初めて見たのでちょっと衝撃でした・・・。日本生殖医学会のページにも同じような資料が掲載されていましたが、卵さえ正常であれば44歳を過ぎても生産率は変わらないとは・・。
- 研究では、同じ年齢でも自分の卵で体外受精を行っている女性は成功率を大幅に低下することが判明した(下の図参照)。しかし、若い女性の卵子提供を受けた場合には、妊娠率はすべての年齢層にわたって50%に安定している。
*グラフは extendfertility.comより抜粋
- これは極めて重要な事実である。「高齢出産」では妊娠糖尿病などのリスクがやや高いという事実はあるものの、結局は「卵子の質=染色体が正常な卵子であるかどうか」がほとんどの鍵を握っていると言っても良い。
ソース記事(卵子凍結を行っている米企業のサイト)
つまり、「遺伝子・染色体」というキーワードは確かに避けられないものであり、年齢が若くてもそこに異常があるような場合には、「原因不明」と言われる不妊になり得るのではないかと理解しています。
たしかに、30代でもがんになる人もいれば、90歳でもならずに元気な人がいる。それと本質的には同じなのかなという気がしています。そして民間療法はどれも「体温が高いとがんにならない」とか「○○(食品)にはがん細胞を抑制する効果がある」とかいう類のものと同じなのかなと。
つまり、「医学のように多くの人に有意に効くものではないが、人によっては効果が出る場合もある」ということであって、人間の身体の構造や働きから考えれば妥当な説明だなという感想です。(遺伝子異常ならやっぱり不妊症って立派な病気だろうが!と思うけどね)
現代人としては自信を持って言えるくらいには健康的な生活をしてきているので、医師が言うようにこれ以上制約を作ったり異常な努力をする必要はない、と改めて感じました。
私達夫婦が受けた染色体検査については以下の記事をご参照ください。