私も週の初めに避難目的ではなかったんだけど東京から地方に出てきてしまった手前(この2週間は健診と永田町訪問の計5時間ほどしか外出してませんが・・)何か自分にできることはないかということで、妊娠中のCOVID-19に関する情報をまとめていきたいと思います。
- 今言えること(ざっくり結論)
- 日本での緊急事態宣言を受けた声明(2020年4月7日更新)
- 対応の要点(2つの学会の見解:2020年4月17日更新)
- 妊娠している方が感染した場合
- 妊娠中の感染に関する予後の報告例
- その他、海外における情報
- 分娩予定産院(東京)における対応
- 各国の妊婦に対する対応
今言えること(ざっくり結論)
一般的に妊娠中はウイルス感染による重症化リスクが高いとされているが、COVID-19に関してはそれを明確に示した報告はまだない。(または判断に至る十分なデータがない)
特に、妊娠中は胎児への影響が大きな懸念になるが、これについても十分な情報は集まっておらず、何らかの断定をできる段階にはない。ただし、現時点では妊婦は感染しないことが最も重要であることは間違いなく、その論調はどのソースでも共通している。
つまり妊娠中に罹患するリスクに関する明確なエビデンスはまだないが、感染症の傾向から考えるとハイリスクの可能性があるので特に感染しないように気をつけよ、という状態です。
以降についてはソースも明記していますが、CDCのような公的機関から、学会、論文、大学病院までソース元はバラバラです。
日本での緊急事態宣言を受けた声明(2020年4月7日更新)
日本産科婦人科学会より出されている最新の声明になります。
まぁあの・・正直そうだよね、という当たり前のことしか書いてないですけど、とにかく妊娠中・出産時の対応が平時と異なっていくことに不安を抱いている人は多いです。
「仕方ない」ではなく、一刻も早く収束させるための方策をお願いしたいと個人的には願わずにはいられません。
対応の要点(2つの学会の見解:2020年4月17日更新)
妊娠中のCOVID-19感染に関しては、公益社団法人 日本産科婦人科学会 と
日本産婦人科感染症学会 の2つが公式な発表のベースになると思われます。厚労省からの発信は、これらに基づいて行われていると考えて良さそうです。
一番情報の網羅性が高い産婦人科感染症学会の情報から、一般向けと異なるポイントのみをピックアップしました。(現時点で日本産科婦人科学会の情報もすべてこちらのリンクにつながるようになっています)
妊婦・妊娠を希望する方向けは2020年4月17日更新の第9版ver2が現時点の最新です。
- 37.5度以上の発熱や倦怠感が2日以上続く場合には、帰国者・接触者相談センターにご相談ください。
- 体調に変化がない場合には、通常通り妊婦健診を受診してください。
- 新型コロナウイルス感染の可能性のある時は妊婦健診受診を控えてください。その場合、可能であれば自宅での血圧測定を行い、記録してください。また、ご家族に患者さんがおられる場合も妊婦健診の受診日を 1-2 週ずらすことは可能ですので主治医に電話でご相談ください。
- 但し、自宅で様子を見ていただくのはそれまでの妊娠経過が正常の場合に限ります。不正出血やお腹の痛み、破水感など産科的症状のある場合は受診が必要ですが、かかりつけの産婦人科で対応できないことがあります。その際には、帰国者・接触者相談センターにご相談ください。
- ご家族や職場に新型コロナウイルス感染者がおられ、濃厚接触した方はあらかじめご連絡ください。来院時間や外来診療場所など他の患者さんと分けて対応します。その場合、主治医や看護師など医療スタッフはマスクやガウンを着用して感染者に準じた対応をいたします。
- 妊娠末期(分娩前)に新型コロナウイルスに感染した妊婦さんは,指定医療機関で分娩を行うことになります。新生児お母さん双方のウイルス陰性が確認されるまで面会できずまた授乳もできません。
- 新型コロナウイルス感染のリスクを避けるために、立ち合い分娩や面会はご遠慮ください。
- 緊急事態宣言の全国拡大により、遠隔地への帰省分娩(里帰り出産)は出来る限り避けてください。
妊娠している方が感染した場合
こちらも上記同様に産婦人科感染症学会がソースです。
- 妊娠初期・中期に流早産を来す可能性は高くないと考えられています。また胎児奇形の報告は現在のところありません。従って感染が心配な場合、まずは自宅安静で様子を見てください。37.5 度以上の発熱が 2 日以上続く場合は帰国者・接触者相談センターにご相談ください。その指示により指定された医療機関を受診していただきます。
- 場合によっては妊婦健診を 1-2 週遅らせることも考慮してください。
- 母子感染がなくても,妊婦さんの肺炎は横隔膜が持ち上がるために換気が抑制され、またうっ血しやすいことから重症化する可能性があります。
- 妊娠後期の感染で、出産に至るときも他の患者さんに感染させないよう受け入れ可能な施設での対応になります。陣痛室,分娩室や出産後の回復室は全てトイレつき個室となります。部屋から外に出ることや赤ちゃんとの面会、授乳はできません。産科医をはじめとする医療スタッフは院内感染予防のため全身を覆うガウンとアイガード、マスクを着用して診察・看護いたします。面会や立会分娩はできません。
- 肺炎などに加え、赤ちゃんの状態によって帝王切開になる可能性がありますが、その判断は主治医にお任せください。
また、医療者向けの 対応ガイドライン(第3版- 2020年4月7日) を見ると、以下のようにも記載があります。
- 仮に感染が判明しても大部分は軽症であり薬物療法の適応はありません。
- 有効の可能性のある抗 HIV 薬(ロピナビル,リトナビル カレトラ®)や抗インフルエンザ薬(ファビピラビル アビガン®)は原則的に妊婦禁忌であり、特効薬はありません。
- まだ 3 例のみですが,国内で喘息に投与される吸入ステロイド(シクレソニド オルベスコ®)が有効であったという報告があります。本薬剤は喘息の妊婦にも有益性投与が認められています。 しかしながら保険適応外である点に加えてまだ十分なエビデンスが無く、副作用の問題や高度の全身管理が必要であるため酸素投与が必要となった重症例には本人と家族に十分なInformed Consent のうえ呼吸器科や救命救急科医師の意見を求めたうえで投与を検討してください。
つまり、罹患しても「一般の方に使用されるような薬物投与は妊婦には難しい」ということを言っており、特に軽症の場合にはできる治療がほとんどないことを意味していると考えられます。
妊娠中の感染に関する予後の報告例
① 妊娠後期の9名の感染例も帝王切開による出産で胎児に問題はなし(2月12日、中国武漢)
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30360-3/fulltext
2月12日付の Lancet の報告では、要約:2020年1月20〜31日に、COVID-19に感染した9名(26〜40歳、妊娠36〜39週)の妊婦の予後を報告します。9名全員が帝王切開で出産しました。7名で発熱、4名で咳、3名で筋肉痛、2名で喉の痛み、2名で気分不良が認められた。
2名で胎児仮死、5名でリンパ球減少、3名で肝機能低下を認めたが、重症肺炎や死亡はありませんでした。赤ちゃんは9名とも健康で、羊水、臍帯血、赤ちゃんの喉からのサンプルが採取できた6名の胎児について感染はなかったとの報告。また、胎盤病理解析を行った 3 例で、母子感染は認められなかった。
妊娠の有無に関わらず、COVID-19感染者の病態や重症度は同様で、子宮内感染や垂直感染もなかったとされている。ただし、本件は妊娠後期での報告のため、初期・中期の影響についての情報はない。
② 妊娠中に罹患した13例のち1例で母体の重症肺炎等による子宮内胎児死亡(2月28日、中国武漢)
https://www.journalofinfection.com/article/S0163-4453(20)30109-2/fulltext
2月28日に発表された中国武漢からの報告として、妊娠中に罹患した妊婦 13 例のうち、1 例で妊娠 34 週の子宮内胎児死亡が報告されましたが、その原因は胎児へのウイルス感染でなく、母体の重症肺炎と多臓器不全によるものとされています。
一般的に、妊婦さんの肺炎は横隔膜が持ち上がるために換気が抑制され、またうっ血しやすいことから重症化する可能性があります。
③ 感染妊婦から出生した33例のうち3例の新生児に陽性確認も全例で回復(3月26日、中国武漢)
COVID-19に感染した妊婦から出生した33例の新生児について、3例のPCR陽性(COVID-19感染)が確認され、こちらは子宮内感染と認められた。いずれも新生児は救命できたものの、31 週早産の一例(母体肺炎で緊急帝王切開)では重篤な肺炎と敗血症が見られたとの報告。
④妊娠末期の 6 例において胎児への感染はないものの 2 例でIgM 抗体が陽性(3月26日、中国武漢)
Antibodies in Infants Born to Mothers With COVID-19 Pneumonia
武漢の他の研究施設から,妊娠末期に帝王切開した 6 例中 2 例で子宮内感染のときに検出される IgM 抗体が陽性であったとする報告があります。
ただし、PCR検査は陰性で新生児に健康的な影響は今のところ出ていないとの報告。
その他、海外における情報
日本(特に東京)の感染者数発表がどれくらい嘘くさかったかは別として、欧州やアメリカの方が感染の拡大としては先を行っている状況ですので、海外の情報の方が参考になることも多いかなと思います。
各国の妊婦・妊娠中のCOVID-19感染に関するアナウンス
People who are at higher risk for severe illness | CDC(アメリカ)-2020年3月26日
妊娠中の人は重度のウイルス性疾患のリスクがあることが知られているため、監視する必要があります。ただし、これまでのところ、COVID-19のデータはリスクの増加を示していません 。
一般に、妊娠中の女性がCOVID-19を発症した場合、他の健康な成人よりも重症になる可能性は低いようです。妊娠中の女性の大多数は、軽度または中程度の風邪/インフルエンザのような症状のみを経験することが予想されます。今のところ、この感染症にかかった妊婦が他の健康な人よりも深刻な合併症にかかるリスクが高いという証拠はありません。
COVID-19 in Pregnancy(UCLA Healthによる動画)
産婦人科医の重見先生がTwitterでご紹介されていた動画、全編英語だったのでポイントだけ書き出しておきます。
COVID19 in Pregnancy | Yalda Afshar, MD, PhD, Rashmi R. Rao, MD UCLA
内容としては、冒頭の産婦人科感染症学会のインフォメーションと相違ありません。
- COVID-19とはどんなウイルスか?(SARSとの構造の違い、感染力の違い、感染経路、潜伏期間、主な症状などの基礎的な情報)-動画中7分頃まで
- 妊娠中のCOVID-19感染に関してUCLAでも調査等のハードワークをしているが、他のウイルス感染症と比較してもハイリスクや極めて重篤なケースは出ていない(ただし、すべてを判断するには時期尚早である)
- また、胎児への感染リスクや早産、流産に関する明確な影響も出ていない
- 母乳を飲ませることは問題がない、ただし消毒やマスクなどをした状態が望ましい
- UCLAに関して言えば病院がリスクが高いわけではないので、自宅出産より病院での出産の方が安全と言える
- 感染リスクを抑えるためにできること(妊娠しているかどうかに関わらず、手洗いや症状のある人との接触を避けることなど)
- 症状が出た時どうするか、ウイルス検査について(アメリカの例になりますが)
- 妊活を避けるべきか?---> 自然妊娠を目指す方についてはその必要はない、ただし、IVFについてはUCLAでは現在治療をストップしている
- ベイビームーンやベイビーシャワーはやってもいい?--> これは移動や人が集まるので避けるべき、オンラインをおすすめする
- 遠方に住む家族が出産のために訪問する予定だったが中止すべきか?--->今の状況は移動が大きなリスクとなるため中止し地域のサポートをメインにすべき
分娩予定産院(東京)における対応
2020年4月9日までに私の分娩予定施設である順天堂医院からの通達は以下の通りです。
- 原則面会禁止、立ち会い分娩禁止
- 妊婦健診の間隔を通常の24週ではなく36週まで4週間に1回に変更(セミオープンの提携クリニックについては各施設により異なる)
- 無痛分娩対応ができない可能性(5月14日時点では提供されているとのこと)
- 母親学級・両親学級の中止
ただでさえ受難な妊娠・出産が、ここまで有事対応になるとは・・・・腹をくくるしかないですね。ないですけど、なんとか、なんとかここで感染を食い止めてと願わずにはいられません。
各国の妊婦に対する対応
では妊婦に対してどのような対応が取られているか、一般の方と違うのか?という点ですが、日本語でも英語でも調べられたのはこれくらい。
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フィリピン :妊婦は自宅から出ることを禁止する(3月18日発表)
- イギリス:妊婦に12週間の自宅待機を要請(3月16日発表)
- アメリカ:COVID-19により失業等した低所得の妊婦を対象に食費支援(3月18日発表)
- フランス、イタリアなどは妊婦かどうかに関わらず外出禁止
ここからは、私見です。
現時点で、妊娠中だからと過度にストレスに感じる必要はないってことかもしれないけど、結局できる治療が限定的である以上、とにかく予防に努めるしかなく、ハイリスク層に感染させないためにはどうすれば良いのか、という視点で対策すべきでしょうし、心配しすぎるくらいでちょうどいいのかもしれないですね・・。
個人的な意見としては短期決戦での食料品&生活必需品店、その製造と物流、病院、警察や消防などの生命維持に必要な機能以外は閉鎖し、都市封鎖を行ういわゆるロックダウンがどれほど有効なのかが早く知りたいなと思います。
それが収束のために有効なら、国が給与補填を行った上で一旦3週間から1ヶ月近くオンライン以外の社会機能を停止することもやむなしではないかと。
逆にそれが意味をなさない(つまりロックダウンしても感染拡大が止まらない)場合、ハイリスク層に移動や外出だけを制限することでどこまで現実的に感染リスクを抑えられて、その人たちの命と生活を守れるのか、という視点で考えてほしいと思っています。(現時点で私がどうすべきと意見できるほどの情報と論理を持ち合わせていません)
私の場合、不妊治療の時の方が輪をかけて社会の冷たさみたいなものは感じていましたけど、妊娠中の方への対応という点も国としても社会としてもだいぶ後手後手というか、何も考えてないんだろうなという気がします。これは本当に早急に措置を講じてほしいところ。
不妊治療への対応についてはソース元が違うので、別途まとめたいと思います〜。