めありずむ

不妊治療の保険適用と理解促進に取り組むブログ(時々妊婦の雑記)

【不妊治療の保険適用】現実課題②「診療報酬」編

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不妊治療を保険適用する場合のポイントとして上げた①混合診療問題と②診療報酬設定、今回は②診療報酬についてまとめたいと思います。ま、どっちも繋がっている話ではありますが。

不妊治療の保険適用時に押さえておきたい2つのポイント

保険適用に向けてクリアすべき課題として押さえておかないといけない2つが以下だと思っています。

  • 通常の治療で混合診療にならないための保険適用範囲設定
  • 診療報酬の点数設定

ちなみに、「保険適用」というのはきっかけに過ぎないので、その議論の中で

  • 施設の実績開示と施設間の知識・技術格差の是正(第三者機関による評価等)
  • 不妊治療・不育治療の治療ガイドラインの策定、更新
  • 胚培養士の国家資格化および待遇改善(地位向上)
  • 生殖医療に関する法整備
  • 泌尿器科・産婦人科の連携(生殖医学としての協力体制の確立)

といった医療提供体制そのものに国が介入することが何より重要であるという主張には変わりありません。そして、その先に

  • 不妊治療が当たり前に取り組める選択肢になるよう疾病としての理解の確立
  • 不妊治療、不育治療、流産・死産ケアを含めた仕事との両立、再就職支援
  • プレコンセプションケア教育

といった社会システムへの浸透があるものと思っています。

不妊治療の保険適用状況

診療報酬(または公示薬価)が設定される=保険適用を意味するわけですが、一応おさらいとして、不妊治療関連の現状の保険適用範囲について。

不妊治療は、子宮、卵巣、精巣などの不妊原因になり得る臓器の疾病治療以外はすべてが自費診療です。

要は自然妊娠が難しい人への「直接的な不妊治療=生殖補助医療」という意味では全部保険適用外です。

実は私もずっと「タイミング法は保険診療」になっているのに「不妊は疾病ではないから保険適用外だ」とするなんて矛盾だと思っていたのですが、最近担当の行政官に伺った厚労省の見解としては、「タイミング法」という診療区分は存在しないので、いわゆる「不妊治療」はすべて保険適用外という扱いで、一部だけ保険適用しているという認識はなく、そこに矛盾はないという説明でした。

【参考】産婦人科社会保険診療報酬点数早見表---平成30年4月版

クリニックではHPの表記でも実態のお会計でも「タイミング法は保険診療」としているところが多いですが、実際は「経膣超音波検査」などを不妊治療だけに限定されない項目で保険診療になるケースがあるので、不妊治療ではなく通常の婦人科の検査・診療として扱うことで保険診療として融通してくれている、というのが実情のようです。

ということで「不妊治療はすべて保険適用外というのが公式見解」らしいですよ。

診療報酬はどうやって決まるのか?

では本題に。そもそも診療報酬が決まる流れをざっくり見ていきましょ。

一応、保険適用・診療報酬改定へのアプローチとしては大きく3つの道筋があると言われています。

  1. 学会から内保連を通じて中医協医療技術委員会に要望を出す方法。これは日産婦や生殖医学会が動いてくれない限りは難しいルート。事務局として厚労省の目にも触れるので重要事項であれば要望が取り上げられる可能性は高い。
  2. 医師会経由。これも、はやりルートとしては学会からの発信が必要なので、一般から上げるのはかなり難あり。
  3. 厚労省・厚労大臣に直接要望する、政治的な手法。

私達が当事者として取り得る手段は、正直3つめしかなく、今それが動き出しているものになります。

新規医療サービスの保険収載

新規医療サービスを保険導入するプロセスとしては、医薬品&医療機器と、それ以外の技術・サービスに分かれています。

医薬品や医療機器は、製薬企業などの民間企業が研究開発・製造する製品が「薬機法」に基づく審査承認にて保険収載(保険適用と価格の決定)されるため、2年に一度の診療報酬改定のタイミングとは別に年4回程度の頻度で保険導入のプロセスが整備されています。

一度、不妊治療全般が保険診療になれば、その後出る新薬や機器については上記のプロセスに乗る可能性が高いです。

一方で今回の不妊治療のケースのように、医薬品や医療機器など以外の新規の技術・サービスについては、一括して関連する専門家や学会などの意見を聴取しながら、2年に一度の診療報酬改定に合わせて中医協において保険導入の可否が決定されることがほとんどです。(カジノ法案のギャンブル依存症は無理やり完全な政治主導の判断で急いで2020年の改定に間に合わせたのではないかと推測しますが・・)

つまり原則的には、不妊治療を保険適用化については、最短で2年後(2022年4月)の診療報酬改定をターゲットに今後本格的に検討されるもの、と考えています。おそらくまずは、保険適用の範囲の議論と適正な診療報酬設定のために専門家会議等が別途立ち上がるところからでしょうかね。

診療報酬そのものの決め方については、専門家や学会の意見も見ながら、下記の既存医療サービスの診療報酬改定と同様に実際の医療材料やクリニックの経営に関する各種指標を参考に中医協が決めていくものと思われます。

【参照】

既存医療サービスの診療報酬見直し

  1. 診療報酬は医療の進歩や世間の状況とかけ離れないよう、通常2年に一度改定(見直し)されている(薬価については医療費抑制のため毎年改定)
  2. 厚労省が政府が決めた改定率を基に中医協に意見を求め、中医協が個々の医療サービスの内容(必要性や有効性など)を審議し意見した上で、最終的には厚労大臣が公の価格を決定
  3. 中医協の審議においては、医業経営指標として、病院経営収支調査、医療経済実態調査、医薬品価格調査、特定保険医療材料・再生医療等製品価格調査など様々なデータが参照される。一方、経済指標として、物価指数、賃金指数、国内総生産指数などの動向も参照されます。これらのデータに加えて、診療側委員からの改定要望の表明、支払側委員からの意見の提出が行われ、各項目の審議が進められる
  4. 中医協(中央社会保険医療協議会)は厚生労働大臣の諮問機関で、公益委員(学者など)、診療側委員(医師代表など)、支払い側委員(健保組合など)3者で構成され、通常は合計20名

この中医協のメンバーは主に医師(報酬を得る方)/健保組合(報酬を払う方)/学者等(中立)/ で、政治家や患者のような一般市民の代表といえるような方は含まれていません。

より自分達が損したくない医師と、より支払いたくない健保と、それでも全体的なバランスを取ろうとする公益委員しかこの協議には参加していないわけです。

★そりゃあ診療報酬の中でも薬価ばかりが大きく引き下げられるに決まってるよね(だって製薬系の立場の人は入ってないんだもん)

しかも、医師の側に産婦人科は疎か不妊・不育治療専門医が入るなんてことは半永久的にありえないでしょうから、この領域は軽視されてきたという可能性もあると思います。(権力のある大学病院に所属する方はほとんどいないし、医師会の中でも弱勢力の産婦人科の中のさらにニッチなところだから)

診療報酬の設定で気になるポイント

で、実際に診療報酬を決めていくプロセスの中で、私が気にしているのは以下の2つ。

  1. 診療実態・患者のニーズを適切に汲み取った上で適切なエビデンスに基づいて保険診療の範囲を設定できるか?
  2. クリニック運営と3割を支払う患者の経済負担の両方を勘案した診療報酬を設定できるか?

これ、正直なところ、本当に全体感を把握できている専門家じゃないと適切に意見できないと思うんです。

「広く最新の治療法に精通し患者の立場を理解している臨床現場の生殖医療専門医」から意見を聞くべき。できればそれに加えて、他疾病でも実施されている患者会のヒアリングのように、当事者(しかも現役世代)からの指摘も受けて然るべきだと思っています。

  • 海外を含めた最新の研究事案や治療法、医療機器等に精通していること
  • 実際に臨床現場で多くの患者と接し、その状況を理解していること
  • 不妊治療専門として真摯にクリニック運営をされていること

こういった条件に当てはまる専門医の意見を絶対に聞いてほしい。医師会や日産婦から派遣されたどこぞの年間数十件しかARTをしていないような大学病院の医師とか、真っ黒に自分の既得権益やお金のことしか考えていない医師とか呼んじゃ絶対ダメ!

でも、きっと厚労省はこういう組織にまず声を掛けるんでしょう?そうじゃないのですよ、患者を、実際に今臨床現場で日々治療に取り組んでいるの生殖医療専門医を、ちゃんと見て議論を進めてくださるよう、強く強く要望したいところです。

良いクリニックが評価される仕組みでないといけない

というのも、単純に杓子定規に「不妊治療も保険診療になります」と決められたとしても、それが診療実態と呼応していなければ意味がないからです。

  • エビデンスに基づき適切な保険診療の範囲を設定しないと、結局患者は自費診療に踊らされてしまう可能性がある
  • 特に海外を含めてその効果がある程度証明されている治療法などを認めないことによる既得権益の保護などは断じて許すまじ
  • まじめに(消耗品もケチらないとか、最新の良い機器を使うとか)最善の医療を提供しているクリニックが「損」や「赤字経営」になるような点数設定は避けなければならない
  • 一方で現状で同じ治療内容でもあまりに価格差がある実態を鑑みると、おそらくは「料金設定が高すぎる」クリニックも多いはずで、そこを基準にされては保険制度上も、3割は自己負担する患者にとっても歓迎できない

医療といっても、他のヘルスケアと同様にビジネス的な要素は付きまといます。

だからこそ、良いクリニック、つまりエビデンスに基づく標準的な治療を取り入れつつも、患者個別の状態に合わせた治療を選択でき、着実に最短距離で治療成果を上げることのできるクリニックが、ちゃんと評価されて儲かる仕組みでなければいけないのです。

中医協、医師会、学会など診療報酬設定のキーになる組織を見ていると一抹の不安を覚えるのよ・・・これもまた、患者は課題感を持って注視しているということ、厚労省や政治家の方にはちゃんとお伝えしていかねばと思っています。

保険適用は「費用負担減」と「業界へのメス」の二本柱

保険適用は費用負担を軽減することだけが目的と誤解されている方は多いですが、その認識は正しくありません

特に、保険適用時に大きな懸念事項になるが現状のART実施施設に対する緩い参入障壁。正直、生殖医療に実直に取り組んできたわけではない医師や施設でも、比較的容易に不妊治療専門施設を名乗れてしまうというのが現状です。培養環境等についても納得できるような明確な基準もありません。

ARTが保険適用された場合には費用面で動けなかった層の患者増も見込まれますし、その「旨み」だけを狙って不妊治療領域に参入してくる輩は絶対います。それを現状のまま野放しにしてしまっては意味がありません。

不妊治療クリニックは「ヒト胚」というまさに命を取り扱う現場です。儲かりそう、という軽い気持ちで参入されたら患者はたまったもんじゃないのです。

その意味で、ARTなどの不妊治療を保険診療で受けられる施設には、今は存在しない「評価基準」も必要であると思っています。(JISARTほど厳しくすることはないと思うけど・・)

培養環境に関する定期調査の実施、求められたデータ等の情報開示、災害など緊急時の対応BCPの策定など、最低限守られるべき施設の基準があって、それをクリアしていないと保険診療は提供できない、とすることが望ましいと。(もしくは、最低限の基準に加えて施設のランク付けを行うとかね・・・)

ただ・・地域格差が生じて、患者によって保険診療で通える範囲にクリニックがなくなってしまうという事態は避けなければいけないのですが、厳しい地域は正直出ると思います。そこをどう救っていくのか、具体的には知識や技術のアップデートをどのように実現していくかというのは簡単ではない課題であるとは認識しています。

このあたり、また深ぼって考えたいところですね。