めありずむ

不妊治療の保険適用と理解促進に取り組むブログメディア(時々雑記)

卵巣刺激による健康リスクは未だ未知数?(海外記事より)

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卵子提供について調べていて出くわした2017年のThe New York Timesの記事がちょっと気になる内容だったので訳してみました。

卵子提供者は長期的なリスクに直面するのか? 

そんなタイトルの記事でしたが、中身を読むと「2回以上の卵巣刺激(いわゆる高刺激)をしている場合の長期的な健康リスクは未知数である」という内容。

つまり、卵子提供者だけじゃなく、自分の卵子で体外受精にトライしている人にも当てはまるものだったので、あれ、乳がんリスクの増加とかは否定されてたはずだったけど・・と思いしっかり読んでみる事にしました。

元記事はこちらになります。

記事のざっくり要旨

要は卵巣刺激を受けた、遺伝的リスクはないと思われる人が若年層で乳がんや大腸がんにかかっているという報告があるけど、その原因が卵巣刺激によるものかそうでないかはまだよく分からん、でもその可能性も否定できない。って話のようです。

  • 卵巣刺激による長期的な健康影響はまだ体系的に研究されていない
  • 特に卵巣刺激を2回以上受けたすべての女性は、長期的な健康上のリスクは未知であると理解すべき
  • 卵子提供者もしくは体外受精を行なった女性のその後の健康状態を追跡しているケースはなく、特に匿名による卵子提供の場合にはその対象者の追跡がより困難という課題がある
  • 卵子提供に関していえば、そもそもドナーの正確な人数さえ統計的に信頼できるデータは存在していない(らしい)
  • これは卵巣刺激を行なう全ての女性(体外受精を受ける女性、卵子提供を行なう女性、卵子凍結を行なう女性)に当てはまり得る課題である
  • ただし一般的に体外受精を行なう女性は比較的高齢であり、内分泌等の他の異常がある可能性があるため、若く健康な卵子提供者と同等の長期的なリスクを追うかについて信頼できる調査はされていない
事例1 -卵子ドナーの女性が若くしてがんで亡くなった
  • 大学時代から3回の卵子提供を行なった女性が最後の採卵から4年後の29歳の時、転移性結腸癌に罹患、その後亡くなった。
  • 彼女の卵子提供とがんは全く無関係だったかもしれない。しかし、彼女に大腸癌やこの病気に関連する遺伝子リスクは見つからず、健康志向の若い女性だったことを考えると、彼女が受けた広範囲のホルモン治療ががんの成長を刺激した可能性はゼロとは言い切れない。
事例2 -卵子ドナーの乳がん症例報告
  • 2017年初にReproductive Biomedicine Onlineにおいて、アリゾナ・ツーソンの内科医であるシュナイダー博士と2人の共著者が、卵子提供者のうち5人の乳癌症例について報告した。そのうち4人は30代女性であり、5人全員が明らかな疾患の遺伝的リスクはなかった。
  • シュナイダー博士はインタビューの中で「卵子提供はホルモン注射などを必要としない精子提供と同じではない。私の意見では、卵子提供者は他のすべての臓器提供者と同じように扱われる必要があり、 彼らの健康は監視されるべきと考える」と述べている。
  • 著者らは、単独の症例では卵子提供者のホルモン刺激が様々な癌のリスクを増加させるかどうかを立証するものではないとしながらも、自分の卵子で体外受精できる女性にも同様のリスクが存在する可能性があるとしている。

過去には卵巣刺激によるがんリスクはないという報告も

卵巣刺激と乳がん

一方で、2016年に発表されたオランダで2万人のIVF患者に対して実施されたコホート研究では卵巣刺激による乳がんリスクは否定されています。(私が知っていたのはこの内容だった)

  • 体外受精を受けた群と、体外受精以外の不妊治療を受けた群の乳がん発症率に有意差はなく、一般集団と同じ発症率

卵巣刺激と卵巣がん

 2013年に卵巣がんについても松林先生の論文解説でも基本は否定されていますね。

  • 卵巣刺激(排卵誘発)と卵巣癌リスクには関連がない
  • ただし、生涯未妊(一度も妊娠に至らない)の場合にのみ、クロミフェンによる卵巣癌リスクが増大する

2018年時点のアップデート記事

時系列的には、New York Timesも以下の記事も上記の論文発表の後に行われた研究等の結果で、いずれの記事も明確な有意差はないものの、多少影響する可能性があるという感じの結論になっています。

  • イギリスの研究で25万人以上が対象
  • IVFを受けた女性は、一般集団と比較して乳がんまたは子宮がんのリスクが増加していなかった
  • しかしながら、別種類の乳房がんと卵巣がんの発生率がわずかに高かった
  • 腫瘍のリスクは生殖補助そのものではなく患者の特性によるものである可能性があることを示唆しているが、監視バイアスと治療結果の両方の可能性があり、この集団の継続的モニタリングは不可欠であるとしている

私が一番納得感を持った記事

複数の研究結果などを総合してまとめられている印象だった記事がこちらになります。

  • 卵巣刺激によってがんのリスクが高まるという結論付けはされていない
  • 一方で「不妊」そのものによるがんリスクは存在し、そのことを考慮していない研究が多い
  • 本質的に長期の健康リスクを評価するには大規模かつ少なくとも30~40年程度の継続調査が必要で、それらの結果を得るにはまだ数十年を要する
  • よって現時点で卵巣刺激による健康(罹がん)リスクを結論付けることは時期尚早である

フラットな情報が入らないのは怖い

これらの記事に目を通して思ったのは、ここで出てくる医師・博士達は「まだ長期的なリスクがないと言い切れないぞーー」と言っている、少なくとも海外ではそういった趣旨の記事が一定数出ているにもかかわらず、日本ではそんな話さっぱり聞かれないよね、ということ。

なんとなーくメディアがメディアの役割を果たしていないというか、これだけ情報過多な社会と言われているにもかかわらず、一辺倒な内容が多いのかもしれないなということに疑問を持ったのです。

実際、この問題も他の不妊治療における論争と同様に、「絶対こうだ!」という確固たる結論は出ていないように思います。だからこそ論文によって言っていることが違うという状況なのかなと。

もちろん海外で言われていることが正しいとは全然思わないけれど、少なくとも不妊治療に関してフラットに判断するための材料は揃っていて然るべきなのではないかと思うわけです。

日本では、このようなリスクが提唱されていることすら、どのクリニックでも触れていないように思います。高刺激派のクリニックもそうだし、低刺激・自然派でも「がんなどの長期的な健康リスクがあるという専門家もいる」なんて話は診療でも説明会でもされたことがないと記憶しています。

要は何が言いたいかというと、

  1. クリニックや担当医の言うことがすべてではない
  2. 不妊治療はまだまだ揺れる領域であり、日々情報がUpdateされている
  3. 日本には世界と比較するとメディア的情報が少ない

ということを理解しておかなければいけないよね、ということです。