めありずむ

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体外受精の卵巣刺激法の選択 - 高刺激vs低刺激のリアルデータ比較

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もしかしたらこんな議論が巻き起こるのは日本だけかもしれないですね。不妊治療をされている方はすでにご存知の点ばかりかと思いますが、今回は私自身の実体験も併せてこの卵巣刺激の方法について考えてみます。

卵巣刺激法の選択肢とは

あまりにベーシックな話題なのでここでは詳しくは触れませんが、刺激法の種類としては大きく4段階でしょうか。(実際は刺激の方法は多岐に渡るので、患者に合わせてコントロールされています)

  • 自然周期(薬を使用しない方法、東京のKLCやNACなどが有名)
  • 低刺激(クロミフェンなど経口薬のみを使うことが多い)
  • 中刺激(クロミフェン+FSH(ゴナールエフなど)の注射を少量使うことが多い)
  • 高刺激(FSH、hMGなどの注射剤を毎日高用量使うことが多い) 

世界的に高度生殖医療でのスタンダードは「高刺激」 

日本で行なわれている刺激法の内訳は2013年版で公開が止まっているのですが、5年前で以下のような状況でした。今はもう少し高刺激が主流なのではないかと思いますが・・。

  • 高刺激=約40%
  • 中刺激=約20%
  • 低刺激=約20%
  • 自然=約12%
  • その他=約8%

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出典:ARTデータブック2013

見ての通り、妊娠周期で見ると高刺激が圧倒的に優勢になります。そんな状況で以下の記事を読まれた方も多いのではないでしょうか。

この記事だとまるで日本では「自然・低刺激」が主流のように誤読してしまいそうですが、日本でも主流はアンタゴニスト法などの高刺激です。(なにも刺激種類別の採卵件数とかデータ公表すればいいのに、と思ってしまいますがこれもブラックな事情が背景にあるんですかね)

一般的に高刺激が優れていると言われる理由

高刺激が主流な理由は、採卵あたりの妊娠率が最も高いことに尽きると思います。不妊治療としてのゴールは妊娠を経て無事出産することであり、そのゴールに最短距離で近づける方法が高刺激ということになります。

下記資料のFSHというのがゴナールエフ、ゴナピュール、フォリスチムなどの注射剤のことですね。

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2017年9月- ARTにおける自然周期と刺激周期ー その比較と選択(絹谷産婦人科 院長 絹谷 正之)

言わずもがなですが、患者からすれば「なるべく少ない採卵、移植回数で出産できる」ことが何よりも重要です。もちろん、安全かつ副作用の少ない状態を維持する必要性はありますが、刺激をすればたくさん採卵できる人が高刺激を選択しないのは非常にもったいないというのが一般的な解釈かと思います。 

採卵個数と正常胚率を検証した論文

Array CGH analysis shows that aneuploidy is not related to the number of embryos generated

強力なホルモン刺激によって数が多く採れても1個の卵子の質(染色体正常率)が悪くなることは無いのか?というのが気になる点かと思いますが、「採卵個数と胚の質は関係ない」という結果の論文が出ています。

Euploid embryos(%)が正常率ですが、年齢があがると低下していて、採卵個数による違いほとんどない結果になっていますね。

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30代後半であればおよそ1/4個が正常胚、私のように相互転座があるとその確立は1/2以下に下がるので1/10個くらいがいいところかな~。

ここから必要な採卵個数の目安を知って、刺激法を選択するのはありかなと思います。

実際も刺激法は「卵子の質」には影響しなかった

高刺激・低刺激の両方を試した私の凍結率は、どちらの刺激法でもほぼ同じという結果でした。 かかった費用から考えたら低刺激の方か採卵回数が多い分高額に。

私の場合染色体の相互転座もあり「実年齢よりも卵子の質が悪い(染色体異常が多い)かもしれない」と医師にも言われた事があります。高刺激での培養結果があまりに悪かったため、刺激法というよりは「培養技術が優れている」という点に期待してKLCに転院したのですが、結果的にはあまり変わりませんでした。

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凍結率でみると高刺激でも低刺激でも差はないのであれば、「数」が多く採れる高刺激の方が確率論的には可能性が高くなります。

もちろん培養液などの環境との相性やその周期によっても異なるので一概には言えないものの、この時点で「低刺激」を積極的に選択する理由はほとんどないと判断できます。

結局低刺激に向く人は限定的

結局高刺激で良好な反応が得られないほど卵巣機能が低下している場合(要はたくさん注射を打っても卵胞がほとんど育たないという方)のみということなんでしょうね。

ヨーロッパ生殖医学会では、以下のうち2項目が該当する場合に低刺激が推奨されるとのこと。

  1. 40歳以上または卵巣低反応のリスク(卵巣手術歴など)がある
  2. 卵巣低反応の既往がある(通常の卵巣刺激で卵子が3個以下) 
  3. 卵巣予備能の検査で異常がある(例:AFC<5-7個、AMH <0.5–1.1 ng/ml)

*AFC=卵巣刺激の際に超音波による胞状卵胞数計測(antral follicle count)で見える卵子数 

*AMH=抗ミュラー管ホルモン:血液検査でわかり残っている卵胞数と相関があると言われている

KLCの初診フロアでいつも思うこと

KLCでは初診フロアと採血場所が隣り合わせなので、時々初診受付をされている話し声が聞こえてくるのですが、30歳前後であろう若いカップルが「治療歴がないようですが、うちは不妊治療の中でも体外受精専門になりますがよろしいですか?」と確認されていることがよくあります。

体外受精にステップアップする場合でも、この記事で見てきたように、最初から低刺激のクリニックという選択は違和感があります。

KLC系列のクリニックは、「自然・低刺激」をモットーにしているかなり特殊なクリニックです。よほど高齢な方を除いて、決して有名だからという理由で「最初から行くべき」クリニックではないと思います。

このブログにはKLCのことを調べるために読んでいただく方も多いので、あえてしっかり明言しておきます。

KLCは文字通り最後の砦であって、卵巣機能が正常な方が最初から行くべき場所ではありませんよー!

ってどんな締め方やねん…(笑)