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日本産科婦人科学会倫理委員会主催:着床前診断公開シンポジウムのまとめ

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2018年12月16日(日)に開催された日本産科婦人科学会倫理委員会 公開シンポジウム「着床前診断 -PGT-A特別臨床研究の概要と今後の展望- 」に参加してきましたので、その内容と個人的な感想をまとめました。

*なるべく意訳にならないように注意していますが、要約という性質上発言者の正確な言葉ではない可能性がございますので、その点ご了承ください。

公開シンポジウムの概要

  • 今回のシンポジウムはPGT-Aの特別臨床研究の概要と現時点の結果を広く一般に公開し、市民を交えてPGT-Aに関する総合的な対話を行う事が目的だったのではないかと想定される(特に目的等の発表はないが)。
  • 参加者は医師が約200人、その他が150名程度と推定。(近くにいた医師が「(医師は)200人くらい来てるなー」とおっしゃってたので。)
  • 撮影・録音等禁止

公開シンポジウムで語られた要旨

  • PGT-Aを一般診療として実施していくのはまだ先だが、2019年3月頃に現在の特別臨床研究の結果を論文として発表した後も臨床研究を継続していく(理事長談)
  • パイロット研究を通してPGT-Aの一定の価値を評価しつつ、一般診療への認可・実運用における懸念点や課題が示された
  • 生命倫理に反する(命の選別)という指摘のポイントは「13.18.21番トリソミー」など染色体によっては数的異常があっても産まれる可能性のある卵を選別してしまうこと(ただしこれはNIPT(出生前診断)でも検査可能でありPGT-Aだけの論点ではないうえに、これらの異常は100%元気に産まれるという保障もない)

PGT-Aの評価できる点

  • PTG-Aによって移植した人の妊娠率は有意に高く、流産率は有意に低くなることは事実であり、異常胚を移植することによる患者の費用・時間的負担の低減が期待できる
  • 日本でのパイロット研究の結果でも77人の参加者のうち76人に染色体異常の胚が見つかり、胚全体の約7割は移植に適さない異常があることがわかった
  • 見た目のグレード評価が良好でも、移植しても着床しない・流産してしまう胚を移植してしまっている可能性は高く、PGT-Aによる反復不成功・習慣流産への効果は期待できる

PGT-Aの課題・注意点

  • ただし正常胚を移植すれば100%妊娠・出産できるとは限らない(常に胚以外の要素が影響し得るため)
  • PGT-Aは正常胚を作る技術ではないため、そもそも正常胚盤胞が得られなければ移植・妊娠することはできない(そのため全体として自然妊娠と比較しても有意に出産率は改善しないという説明がなされていたが、自然妊娠可能な群との比較ではサンプルがPGT-Aの本来の対象者とは異なり正しい比較ではないと思う)
  • PGT-Aの技術はある程度の安定的と言って良いが、場合によっては胚にダメージを与えてしまうリスクがあること、モザイクと言われる正常か異常かが微妙な判定結果が出てしまうことはある
  • (シンポジウムでは話されなかったが)現状を鑑みてもPGT-Aは日本では高額になることが予想されるため、費用の妥当性も課題になる

患者視点で補足したいこと

  • 薬剤代を含めて移植だけでも1回15万円~20万円程度の費用がかかる点、流産による精神的苦痛および治療期間の延長による時間的苦痛がどれほどのものであるか理解していない人が「キレイごと」や「数字」だけで判断するような問題ではない。
  • 賛成的な意見の中でも「PGT-Aを受けるべき対象の患者は正しく選定されるべき」というものがあった。PGT-Aが必要ない患者層も存在していることには同感だが、決して万人に適応されるべき技術でなければ認可の必要がないという理論にはならない。
  • 加えて体外受精を行なう全員がPGT-Aを利用すべきとは誰も言っていないし、物事にはメリット/デメリットが存在するのは当然のことで、どちらがベネフィットが大きいかは一律ではなく、患者個別に判断されるものだと思う。
  • 命の選別という言葉は「生まれる可能性のある命(胚)」を一方的に選別しているような印象を与えるが、「今生きている命(母体)の保護」という観点が完全に抜け落ちていることを忘れないでほしい。流産が引き起こす悲劇を知るならば、その意味がわかるはずだ。また、PGT-Aまで必要な人は妊婦の数%と想定され、遺伝子疾患のある子が完全に排除されるような世界ではないし、本気でそれを論点にするのであればNIPT(出生前診断)の是非も含めて議論されるべきだ。既成事実だけを承認するのはまったく論理性に欠ける。

登壇者の発表内容をマッピングしてみました

ぱっとシンポジウムの全体を体現できる方法がないかと思いまして・・・登壇者の方々の発表内容・コメントのうち私が個人的にハイライトなり結論だと解釈した文言をグラフでわかりやすくマッピングしてみました。

中立性を保つため、意図的に否定的な意見を拾いましたが全体的な雰囲気としてPGT-Aを真っ向から否定するという感じは少なかったという印象です。どちらかというと否定的な意見でも「こういう部分に気をつけて運用しないといけないよね」という論調だったかなと。よって、臨床研究でよほど悪い結果が出ない限り、将来的に何らかの形で認可される可能性は高いと感じましたが、問題はその「時期」だと思われます。

 

当日のタイムテーブルに合わせて発言者のお名前も表記しましたのでご参考までに。

1) PGSからPGT-A〜着床前胚染色体異数性検査をめぐる国内外の動き 杉浦先生 名古屋市立大
2)特別臨床研究パイロット試験の概要 桑原先生 徳島大
3) 医療者の立場から(パイロット試験を経験して) 加藤先生 加藤レディスCL
3) 医療者の立場から(パイロット試験を経験して) 山本先生 東京女子医大
4)  着床前診断の倫理社会的側面 柘植先生 明治学院大(社会学部)
4)「日本の生殖医療におけるPGT-Aの意義」 福田先生 IVF大阪CL
4) 「生命への向き合い方」 見尾先生 ミオ・ファティリティCL
5) 「生殖医療における遺伝医療のあり方と今後の課題」 松原先生 日本人類遺伝学会理事長

 

グラフの軸の見方

  • 横軸に不妊患者視点の発言なら左、その他の視点なら右
  • 縦軸に臨床(現場)寄りの発言なら下 、研究的な発言なら上

グラフの色分けの見方

  • PGT-Aに肯定的な意見はブルー
  • 中立的な意見、肯定でも否定でもない意見はグレー
  • PGT-Aに否定的な意見はイエロー

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こうやってみるとどういう立場の人がどういう主旨の発言をされていたかがわりと明確になるかなと思っています。

患者視点・臨床的な立場で見ている方はPGT-Aに肯定的な意見が多く、それ以外の研究的な視点で見ている方は否定的な意見ということが明確かなと感じました。

(まぁあの特にイエローの所で信じられない発言をされている方もいらっしゃって正直ビックリしましたけども・・)

参加して思ったシンポジウムに対する個人的な感想 

私が個人的に抱いた感想は以下の通りです。

  • それぞれの登壇者が自分の視点で発表(主張)している内容に終始していたが、総合討論の場でせめて「日産婦として目指すべきゴール」の意思統一が図られるべきだったのではないかと思う。表題に「今後の展望」と入れておきながら「臨床研究を続けます」という結論では弱すぎる。
  • 特に否定的な意見ではすごく極論が主張されているような印象だったが、実態はもっと柔軟で可変的なものなのではないかと思う。
  • 私の背後に座っていた医師が「患者さんはこれが夢の技術のように誤解して認可してほしいとか言ってるけど40代なのがそもそも遅いんだよ、アメリカで成果が出てるのは若いからだし、どっちにしても若くしなきゃダメ」という会話をしているのが耳に入ってめちゃくちゃイラついた。ちょっと患者をバカにしすぎでは?
  • (どうでもいいけど)プレゼンとしては加藤先生の話が一番聞きやすかった。

私達ができるアクション

ではこの煮え切らない、いつまで待てばいいのかという憤りをどうにもできないのか、私達が一個人として「1日でも早いPGTの認可」のためにできることをリストアップしています。

私はすでにコンプリートしていますが、日産婦へのメールは今回の感想も含めて改めて送付したいと思っています。

① 日本産科婦人科学会への投書

理事長から「日産婦にいただいたご意見も参考に検討する」旨のコメントがあったので、ぜひメールでご意見を送っていただければと思います!

ネットワークがパンクするくらい患者の声を送ろうっ!!!←常識の範囲内でお願いします(笑)

宛先メールアドレス: nissanfu@jsog.or.jp 

② 着床前診断患者の会

入会は無料です。会員数が多くなればなるほど患者の声の総和は大きいと捉えられると思いますので、ぜひご入会ください!

 臨床研究するなら明らかにしてほしいこと

  • グレード(見た目の評価)と正常卵との相関関係はどの程度あるのか
  • 「反復不成功、習慣流産の患者群」と「その他の患者群」で、PGT-Aを実施した場合としない場合の出産率に有意差はあるのか?
  • 日本でPGT-Aにかかるコスト(医療施設負担・患者負担)の妥当性